パパの赤ちゃん日記(15)
【夢をつんざく泣き声】
「今日はカボチャばたくさん食べたとよ」
顔にパックを貼った玲子が声を弾ませる。
生後8ヶ月を過ぎ、菜々子の食事も離乳食が増えてきた。
お座りが上手になった、お母さんといっしょを見て笑った……菜々子の一日の様子を聞くのも修次の日課だ。
カボチャの煮付けを肴に発泡酒を飲みながら、ニュースステーションを見て、玲子の話に耳を傾け、ときおり笑ったり、相づちを打つ。
主役の菜々子は今宵はもう夢の中だ。今日も健やかに育ったわが子に乾杯!!
犬がはっはっはっと喉を鳴らして修次の背後から近づいてくる。あっち行けよ、息をひそませ無視する。しかし、うう〜んという唸り声と同時に犬との距離はさらに縮まる。
恐怖に修次の背筋が粟立つた。
がうんがうんと牙をむく犬の咆哮。うわぁ〜たすけて〜襲われるぅ。うんぎゃあ、うんぎゃあ〜。……あれ? 犬じゃないの? 赤ちゃんの泣き声? 犬はどこ行った?
おっ、ここはわが家の寝室じゃないか。夢か……。実に恐ろしい夢だった。それにしてもうるさい泣き声。脳の芯までキンキンと響く超音波のようだ。
こんな夜中に泣きじゃくるのは一体どこの子じゃい!! おれは明日もお仕事だ。豆球の明かりがかすかに灯る部屋に目をこらすと、薄闇の中に前髪をたらして佇む女性の輪郭が浮かび上がる。
お〜っ! 出たぁ〜。妖怪!おっ!! 貞子……いや玲子じゃないか。
うんぎゃ〜うんぎゃ〜。
ななちゃんどうしたの? お母さんに抱っこされてそんなに泣いて。
修次は布団からはね起き、照明器具の紐を引いた。突然眩しくなった寝室に修次と玲子は目を瞬かせた。
「眠らっさんちゃん……」
「熱は? どこか具合のわるかっちゃなかと?」
「分からん……」
寝ぼけまなこの玲子が困惑しながらあやしている。
もしかして、もしかしてコレがかの有名な夜泣きなのでは。(つづく)