パパの赤ちゃん日記(13)
【真冬の夜熱とマフラー】
ピッピピ。菜々子の脇に挟んだ体温計が電子音を発し、測定終了を告げた。
「わっ!! 38度7分!」
玲子の顔がこわばり、修次に救いを求めるような視線を向けた。
「そ、そがんあると?」
「ねぇ、どがんしゅう?」
玲子にしては、珍しく語調が心細げだ。
「ミルクは飲んだ?」
「うん。食欲はまあまあ」
「なんか……顔とお腹に赤い湿疹の出とるっちゃん」
具合が悪いのだろう、菜々子は玲子にしっかり抱きつき、激しくぐずっている。
「もう9時半やろ、病院診てやらすやろうか……?」
修次は電話帳を開き、かかりつけの内科を探す。
娘の症状を大まかに伝えると、新生児だから小児科の専門医に診てもらった方がよいだろうと、アドバイスをもらい電話を切った。
ところが菜々子はまだ一度も小児科に通院したことがなかった。それに自宅近辺にも小児科医院はなかった。再び電話帳を開き、自宅からできるだけ近い医院を探した。
一軒目は院長不在という返事が返ってきた。
二件目は「これから連れてきなさい」という心強い応えが返ってきた。
修次が菜々子を抱っこして、三人で駐車場へ向かった。
修次は真冬の寒気に震えながら、菜々子をダウンジャケットの懐に包み込むようにして歩いた。
「ななちゃん、もうちょっと、しんぼうしようね」
玲子が白い息を吐きながら、修次の肩から菜々子の首元にマフラーをかける。
それは独身時代に玲子が誕生日プレゼントとして編んでくれた懐かしいマフラーだった。
修次は菜々子の体温とマフラーのぬくもりを感じながら、玲子に向かって「大丈夫さ」と声をかけた。(つづく)