パパの赤ちゃん日記(12)
【お父さんの初節句】
ベビーカーにぬいぐるみ、洋服にオムツ……菜々子が生まれて、修次と玲子は互いの両親にいろんなものを買ってもらった。
孫はわが子以上にかわいいと聞くが、なるほど菜々子と接するときの祖父母たちの屈託のない笑顔は優しさに満ちている。
孫の誕生で、夫婦二人のときよりも両親たちとのコミュニケーションもより円滑に運ぶようになった。子どもの成長は家族間共通の楽しみになっていくものだ。
そんな浦福家にもうすぐビッグイベントがやってくる。初のひな祭りだ。
今度も両親に両親に高額なひな飾りの寄贈を受けることになり、恐縮してしまう。
男兄弟で育った修次には未知なる桃の節句。確かにひな人形は美しいが、その価値観は分からない。
生活はこれだけ欧米化しているのだから、GIジョーとバービー人形を飾ってもおかしくなさそうだが、決してそうはならない。
子どもに関する行事も結婚式と同じで、伝統や観衆を重んじ「普通に」という日本人らしい尺度でいろんな事柄が継承されている。
住宅事情もあり、立派な段飾りは置くことができない、どんな人形がいいのか専門店へ足を運んだ。
修次は段数やサイズで値段が上下するとばかり思っていたが、質やブランドで金額が変わることを知った。
その種類も実に豊富で目が眩むほど。修次は個人的にシンプルながらも味わい深い木目込み人形が気に入った。
しかし、家族の間では、やはり小さいうちはきらびやかなお姫様が喜ぶだろうという一般論に落ち着いた。
「あとはお顔で選んでください」というスタッフのアドバイスを受け、家族総出で売り場を行ったり来たりした。
顔ね。了解フェイスね! 顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔。
お姫様とお内裏様の顔ばかり凝視していた修次は玲子へ向かって、
「ねぇ、ひな人形ってなんか顔色の悪うなか?」
「なんば言いよると、白粉よ。ファンデーションばしとらすとたい。う〜ん美人は値段も高っかね。お父さんもちゃんと選ばんばよ!」
!? 玲子が初めて修次のことを「お父さん」と呼んだ。
「……ハイ!おかあさん」と修次も玲子に返した。 (つづく)