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「日本の青空」

 
試写会で日本国憲法誕生までの真相を描いた映画「日本の青空」を観た。昨今の憲法改正ムードに対抗するために作られたプロパガンダ色の強い作品だという先入観があったのだが、あまりよく知らなかった新憲法制定までの経緯が分かりやすく描いてあって、ひとつのヒューマンドラマとしても楽しめる作品だった。

 中でも史実に基づいた日本政府とGHQの憲法草案作りの頭脳戦はなかなかスリリング。1942年(S21)2月13日、戦前の憲法とほとんど変わっていない日本政府の改正案を国連総司令部が拒否。逆にGHQが作成した“マッカーサー草案”を日本政府に提示してからの憲法草案作りを巡る双方の駆け引き、タイプによる英訳作業、徹夜で続けられた確定案作りのシーンは緊迫感がみなぎっていて見応えがあった。

 この映画を観るまで、日本の憲法はGHQが統治しやすいような内容を作って押しつけたものだという印象を持っていた。ところが“マッカーサー草案”は日本人民間人による「憲法研究会」が作った草案がお手本になっていたという、歴史的にあまり語られてこなかった真相がこの映画の核となっている。

 その立役者が元ジャニーズユニット「男闘呼組」の高橋和也が演じる(渋い役者さんになったなぁ〜)憲法学者、鈴木安蔵。京都帝国大学時代に左翼運動で治安維持法違反第一号となった人物らしいが、学校の授業でも教わった記憶がない名前だ。映画前半、日本が軍国主義に染まってて行くイヤ〜なムードをいち早く察知し抵抗した青年のようだが、刑務所に入れられてしまう。nihonra.jpg 

 敗戦後まもなく、さまざまな国の憲法を研究した鈴木安蔵を中心に知識人たちが集まり、「憲法研究会」を設立。戦争で多くを失い傷ついた一般市民の視点で真の民主国家を築こうと、夢と希望を託した新憲法草案を作成する。その草案の出来映えにGHQも驚き、お手本にしたという物語だ。

 その憲法が21世紀の今にマッチしているかどうかはさておいて、憲法の草案に盛り込まれた女性の参政権など、ごく当たり前と思っていた制度がまだわずか60年そこそこの歴史しかない事実に改めて気づかされた。

 安蔵の妻(藤谷美紀)が「女性が政治に参加できるようになれば戦争はなくなります」といた意味の台詞を言う。政治や軍隊はいつの世も民の気持ちと関係ない所で恐ろしい方向へ向かっていく現実をいやと言うほど経験した戦争体験者にしか出てこない言葉だった思う。

 平和が当たり前の世の中。苦しみ耐えた日本人の魂が宿った憲法に守られている現実は忘れ去られてゆく。日本国憲法が施行されてまだわずか60年。人の平均寿命にも達していない。 まだ還暦を迎えたばかり、福田新総理より若いのだ。せめて100歳まで長生きさせてから日本人にフィットした憲法かどうかを議論しても遅くないのではないだろうか。
 
「自分たちさえよければいい」という人間の欲だけ見れば、地球温暖化も戦争と同じだと思う。水と空気に向かって汚染兵器を人類一丸となって発射しまくってきたのだ。憲法改正より先にと論議する必要があるのは地球温暖化という戦争の方かもしれない。
 
 「日本の青空」という映画は、自分が日本人であるという事実を再認識させてくれた。また同時に長い歴史の時間軸で見た短い平和(現代史)と、長かった地球の命が短くなっていく現実が頭の中で複雑に絡み合ってしまった。人類とはなんだろう?      (長月)

● 佐世保市では10月5日(金)午後3時〜と7時〜光月町のコミュニティセンターで「日本の青空」(大澤豊監督作品)上映会が開かれる。