つい通り過ぎてしまう大川だけど、
この町にはたくさんの国指定重要文化財が

 佐賀大和でインターを降りて、佐賀市内を抜けて国道208号線を走る。筑後川に架かる鉄橋を二つ渡ると、家具の町として有名な大川市だ。
柳河藩小保町の別当職を代々務めた吉原家の建物。文政八年(1825)に建てられたと思われる。驚くほど大きな木材を使っていて、大工や家具職人の技術の高さが判る、実に素晴らしい建物だ。入館料は無料。

つい通り過ぎてしまう大川だけど、
この町にはたくさんの国指定重要文化財が

 また大川市に行きたいと思ったのは、かつて訪ねた『旧吉原家住宅』の記憶が鮮やかに残っているからだ。
 日本中あちこちで古い民家の保存が行われている。時代へのノスタルジーもあるが、その土地の文化が家づくりに集約されているからだろう。
 伊能忠敬の『測量日記』には、文化九年(1812)に吉原家に泊まったことが記されている。欄間や釘隠しなど細部の意匠が実に素晴らしい。大庄屋の家柄以上に贅を尽くした造りだ。平成11年に国指定重要文化財になった。
 旧吉原家がある一画は小保・榎津地区で、古い家が並んで散歩を楽しむ。柳河藩と久留米藩の境目で、その堺を示す『藩境石』が道の隅に並んでいた。
 路地を歩くと木材を切る電気鋸の音が聞こえ、木材の香りが漂ってくる。家具の町・大川を彷彿させる町工場があちこち。また漆の店や酢を製造する『庄分酢』も古い建物だ。300年の歴史を持つ。土産にワインビネガーと赤ぶどう酢蜂蜜ドリンクを買った。  大川の市街地にある『風波宮』も国指定の重要文化財だ。愛称「おふろうさん」は1800年前に創建されたと伝えられる。神宮皇后ゆかりの神社で、境内には樹齢約2000年というクスの古木が茂る。
 町のあちこちに「えつ料理」と書いた青い旗がはためいているので、有明海の珍魚「エツ」を初めて食べてみることに。カタクチイワシ科の魚で、初夏に産卵のため有明海から筑後川をのぼってくる。まあ、名物だから喜んで食べたけど……。
 歌謡曲の代表作曲家・古賀政男は大川の出身。記念館と生家があって懐かしい古賀メロディーを聴くことが出来る。入館料は300円。
 筑後川のほとりにある「大川市立清力美術館」。明治41年に清力酒造の事務所として建築された、見事な西洋建築物。「溝江勘二」を始め、久留米出身の画家の作品を楽しむことが出来る。
 「花ござ」のギャラリーがあったので立ち寄った。い草栽培が筑後地方に伝わって四百年になるそうだが、その良質なイ草だけを織り込んだ「花ござ」掛川織の高級品がずらり。見事な模様があって、これはまさに日本が誇るべきタペストリーだ。
 そして最後は、近代化遺産ともいうべき筑後川昇開橋。ここも国指定重要文化財。佐賀線が廃止される前は線路が走り、橋が上がっていて筑後川を上り下りする船がくぐった。いまは係員が昇降してくれる。かつての線路を歩いて対岸まで行ける。
 家具と清酒、酢づくり、そしてエツ。すべてに筑後川と有明海の恵みを感じさせる大川の一日だった。


小保・榎津地区は古い町並みが残る保存地区だ。車を降りて散策を。
榎津の町の端に、昔の藩境を示す石柱が並んでいる。
保存地区にある「庄分酢」。300年の歴史を持つ手法で手づくりの酢が。味も建物もいい。
風波宮は神宮皇后ゆかりという。朱塗りの神社と青々と茂った楠の古木がいい。
エツ料理。エツはイワシの一種だけど、いまが旬で脂がのっている。
清力酒造の事務所だったが、明治41年建築の西洋建築物。入館は無料。
い草ブティック「草」には掛川織のい草の「花ござ」がいろいろあって楽しい。
筑後川に架かる昇開橋はいま歩道に。時間で昇降させている。夕暮れが美しい。


掲載日:2008年07月28日