鄙びた城下町と焼物の里、旅気分
たっぷりの筑前の山々だ

 秋月から小石原、岩屋、小鹿田と、春まっ盛りの筑紫の山を眺めながらドライブした。
戦争で工事を中断したり、落盤事故で多くの犠牲者を出したという釈迦岳トンネル。JR日田彦山線の筑前岩屋駅に、いまトンネルから姿を現したディーゼル列車が着くところ。それだけでなんだか嬉しくなってくるのどかな風景だ。

鄙びた城下町と焼物の里、旅気分

たっぷりの筑前の山々だ


 甘木市から朝倉市となった秋月。古処山の裾にある鄙びた城下町と、筑後川の広々とした風景はイメージが重ならないが、旅人は行政的区分と関係なく、道がつながるまま車を走らせよう。
 甘木インターを降りて、市内を抜けて秋月へ。川沿いの小道に入ると、鄙びた感じがして嬉しい気分だ。三面張りの護岸ではない川がゆったりながれて、洲には春の花が咲き乱れている。
 秋月に入ってすぐ目につくのが「めがね橋」。川の底まで石が敷かれ、清流が光っている。橋の袂にあるパン屋さんで評判の「カレーパン」を買って頬張る。うまい。
 戦国時代の戦いや幕末の「秋月の乱」などで名前を残す城下町だが、その面影は碁盤の目に走る道と、点々と残る武家屋敷に見える。葛を食べさせる老舗や紙漉き工房があったりして、桜の季節は終わったけど、春はあちこちに溢れている。
 秋月から山を越えて小石原に向かう。少し長くて細い道だけど、山の風景を楽しみながら走ると、盆地の小石原に出る。江戸時代初めから続く陶器の里は、かつての民芸ブームの頃のようにはいかないけれど、まだあちこちに窯元がある。「道の駅・小石原」は小石原焼の直売所となって人気。
 山を越えて向かったのは、筑前岩屋。釈迦岳トンネルの手前にポツンと山小屋風の駅舎があった。駅の水汲み場には連日たくさんの人がポリタンクやペットボトルを持って来る。トンネル工事のとき湧き出した天然の名水だ。飲んでみた。やわらかな口あたり。
 時刻表を見ると、列車の到着が近かったので待つことにした。しばらくすると、ぽっかり開いたトンネルに二つのライトが見えて、二両建てのディーゼル列車が姿を現した。ゆっくりと無人のホームにすべってくる。なんだかタイムスリップした気分。
 岩屋神社に登る。ここは福岡藩四代目藩主の黒田綱政が建立したもので、本殿は国の重要文化財。岩に食い込むように建てられていて、中には菰に包まれた「宝珠石」が神体として祭られている。隕石だという説もあるが……。
 最後は大分県側に出て小鹿田焼の里へ。いつ来ても思うのだけど、ここほど変わらないところはない。十件の窯元が、それぞれ唐臼と水肥場、登り窯を持っていて、何代にもわたって家業として続けている。窯元を一つ一つ訪ねる。飛びカンナや刷毛目の独特な意匠は変わることがない。唐臼が奏でる音と水の調べが快い。ある意味、時代と逆らっているのだが、それが時代を越えて生き残るということを小鹿田の人たちは知っている。


秋月城跡に残る石段には時代の研磨が見えて味がある。春は桜、秋は紅葉が美しい。
春の光を反射した川にかかる石橋。ここから山に向かって、城下町秋月がはじまる。
深い萱拭きが立派な小石原焼の窯元。春の散歩気分で窯元めぐりが出来る。
筑前岩屋駅にはトンネルから湧く天然の水が。まろやかで美味しいと評判。
岩屋の棚田の石積みが綺麗。やがて田植がはじまるとさらにいい風景だ。
岩屋神社は1697年の建立。「神体を見たものは目が見えなくなる」という伝え。
小鹿田(おんた)のあちこちに唐臼がある。水力で石を砕いて陶土を作る昔ながらの風景。
帰りに日田市街のはずれにある、高瀬川沿いの「琴ひら温泉・山水」の日帰り温泉に。


掲載日:2008年06月03日