熊本から霧島、九重、小国を
すっ飛びドライブ。温泉の味見だ

 日帰りドライブスペシャル版として、一泊の温泉ドライブに出た。それも優雅な温泉旅行ではなく、ほとんどが簡易共同温泉の200円ほど。忙しくも楽しい温泉めぐり。

熊本から霧島、九重、小国を

すっ飛びドライブ。温泉の味見だ





 会えば温泉の話で盛り上がり、お互い行ったことのある温泉を自慢してたのだが、その温泉マニアの橋本恭一さん(アルカスSASEBO)が転勤する。福井に帰る前に九州の温泉を満喫したいと言うので、今回の『日帰りドライブ』は自慢の温泉を披露し合う特集に。だから日帰りとはいかず、一泊して広範囲に回ることになった。

「さあ、いくつの温泉に入れるかな」

 まず橋本さんが行ったことないという熊本県の平山温泉。最近はファミリー相手の立ち寄り湯などが出来て注目を集めているが、もともと古い温泉地。川沿いの老朽化したスレート葺き「平山温泉センター」に入る。熱めの硫化水素泉だ。ほんのり硫黄の香りがするけど無色透明。なにしろ150円だから遠来の入湯者が多い。

 「山鹿温泉さくら湯」は大衆浴場という感じ。芝居小屋のような玄関だ。

 夏目漱石の『草枕』に出てくる熊本県小天。そこにある「草枕温泉てんすい」の露天風呂からは、春霞が広がる有明海と普賢岳がぼんやり見えた。

 のんびり入りたいけれどなにしろ急ぐ道中だ。体をリトマス試験紙のように、「少し酸性だね」「ぬるっとしてるよ」とまさに温泉の味見なのだ。

 海辺の日奈久温泉にも立ち寄りたいと迷ったけれど、霧島山系の裾にたくさんある温泉に入らなければと九州自動車道をひとっ飛び。溝辺鹿児島インターで降りると、韓国岳、高千穂峰がその雄姿を見せてきた。「妙見」「案楽」と温泉地を通過して、ようやく橋本さんが勧める穴場に着いた。

 犬飼滝の手前の道に、砂岩で囲った井戸のような温泉がある。この「和気湯」は個人所有で無料、地元の有志が管理している。この地に流された和気清麿が発見したという古い温泉だそうで、岩盤と砂地の底から湧いている。マニアが集う隠れ湯だった。

 そこで会った夫婦からとっておきの情報をキャッチ。国有林を奥深くに青い川があって、流れ全部が硫黄分の温泉だと言う。二人はニヤリとした。

「長湯のラムネ温泉よりも炭酸の泡がすごい、真白になりますよ」

 そう橋本さんが力説するのが「湯之元温泉」。確かに浸かってしばらくすると、泡がびっしり体について真白に。チカチカ刺すように肌が痛い。飲んでみたら甘味のないソーダ水だ。

 宿は「湯之谷温泉」の霧島湯之谷山荘にした。霧島温泉の中心、丸尾から少し山に入った湯治場だ。硫黄泉と炭酸泉(ラムネ)の二種類の源泉がある。

「湯舟が三つあるでしょ。真ん中で二つの湯が混ざってブレンドされるから、三通り楽しめるんですよ」

 朝早く起きて、幻の川に温泉を探しに行く。山道を歩いて、立ち入り禁止と看板がある国有林をさらに進むと、湯けむりが見えてきた。そこに夫妻が教えてくれた「山ヶ城温泉(通称、川湯)」があった。川が地獄状態で、流れる熱湯が水と混じって、ほどよい温度になるところを探すのだ。これぞ温泉の醍醐味。

「やっぱり新湯は行かなけりゃ」

「硫黄の成分がリラックスするよね」

 新燃岳の裾に「新湯」はある。韓国岳登山のときに投湯した。国民宿舎で、立寄り湯は500円と少し高いけど、まさに温泉らしい硫黄の匂いに包まれる。二人のお勧めスポットだ。

 もっと入りたいけど、阿蘇や九重に詳しい僕としては橋本さんにそっちの温泉も是非入って欲しいのだ。えびの高原を走っていると鹿に出会った。

 えびのインターから高速で北上。阿蘇を抜けて小国へとひた走る。黒川温泉は誰も知る人気スポットだから遠慮して「満願寺温泉」へ。通るたびに入りたいと思っていたのだが、なにしろ県道沿いの川にあるから勇気が必要。興に乗った二人は喜び勇んで入った。湯の外にはフナが泳いでいた。

 先の「日帰りドライブで」見つけたのが、畑の中にある「寺野尾温泉」だ。本来は地元の人の共同温泉なのだけど、誰でも200円で入湯出来る。

 戦後に湧いた山川温泉。これも地元の共同湯。近くにある「奴留湯温泉」は底に石が敷かれている。温度が低いのでしっかり入らなくては。

 もっと行きたい温泉はあるけど、夕暮れが迫ったので帰途につく。日田に向かう途中で「三日月温泉」の看板を見つけて最後の入浴をした。

 ところで、なぜ僕らはこれほど温泉が好きなのだろう。いや、僕らに限らずどうして日本人は温泉が好きなのか。「自然と一体かする気分ですかねえ」

「大地に抱かれて、胎内回帰するような気になるのかなあ……」

「九州はいろんな泉質の温泉があって素晴らしいよ」

 十六もの温泉に浸かったのだったが、福井に帰った橋本さんは九州の温泉を懐かしんでいるだろうか。

(文・小川照郷)




1200年の歴史を持つ平山温泉。とろりとした感触の単純硫黄泉。番台の人がいる昔ながらの「平山温泉センター」は150円。
山鹿市の中心にある「さくら湯」は昔のままに玄関が残されているけど、なかは広い共同浴場のよう。150円。
熊本県の小天温泉の「草枕温泉てんすい」は、サウナもあって500円。露天風呂からの有明海の眺めが圧巻
個人の所有だという「和気湯」が解放されている。タダ。もちろん混浴だし、道端にあるので、入るには勇気も少しいるけど。
「湯之元温泉」の炭酸はすごい。冷たい湯にしばらく浸かると、全身に泡がついて真白に。サウナもあって400円
「湯之谷温泉」の山荘は素泊り4500円。硫黄泉と炭酸泉(ラムネ)の二種類が湧いている。露天風呂もある。
国有林のある谷を流れる川に湧いている、「山ヶ城温泉」。川湯とも呼ばれているようだ。自然の中だからもちろん無料。
霧島温泉の新湯に登る途中の道沿い、林の中に、「目の湯」と呼ばれる「岩風呂」が。一番古い温泉だそうで、勿論タダ。
「新湯」は新燃岳の山裾にある、国民宿舎新燃荘にある。硫化水素泉の青い湯で、入浴料は500円。
えびの高原を下る途中にある「白鳥温泉」。露天風呂からの眺めは雄大だ。蒸気温泉がいいという。300円。
「満願寺温泉」の川の中にある共同湯。300円。川沿いの県道に車が通って勇気がいるけど、魚といっしょの気分がいい。
「寺尾野温泉」の薬師湯は村人の共同浴場だろうけど、100円で旅人もOK。集落の外れにあって隠れ湯発見という感じ。
昭和31年に村で井戸を掘っていたら温泉が出たという「山川温泉」。住民の共同浴場は200円。
小国の北里に近い「奴留湯温泉」はぬるい湯だ。じっくり入らないといけない。底には石が敷かれてある。200円。
玖珠町の「三日月の滝温泉」は滝のある公園の中にある。300円。


掲載日:2008年05月12日