焼物のまち・有田をそぞろ歩く
古い商家の町並、トンパイ塀の小道

 あまりに近いから旅気分は期待できないと思って来たけど、なかなか風情ある町だ。路地を歩くと小さな工房や古い商家があって、トンパイ塀の落着きがどこか遠くの町に来たような気にさせる。有田は世界が注目した焼き物の町である。
トンパイとは登り窯を壊した後に出る耐火煉瓦やトチンなどの廃材のこと。それを昔の人はうまく利用して、味のある塀にしたてた。有田のあちこちに、焼物の里ならではの風情を残した路地風景がある。

焼物のまち・有田をそぞろ歩く

古い商家の町並、トンパイ塀の小道


 佐世保から行くとつい高速道を行くから通過しなかったり、通ってもバイパスを利用したりと、こんなに近い隣の町なのになんだか遠い気分。日帰りドライブも近いとあまり気がはいらなくてだらけてしまうから、今回は車を降りて、散歩を楽しむことにした。
 最初に立ち寄ったのは、佐賀県立九州陶磁文化館。ここに来ると有田焼の全貌が判る。ヨーロッパの貴族たちに喜ばれ、長崎の出島から多量に輸出された。人間国宝や文化勲章受章者、また地元作家の優れた現代作品も展示されている。地下にある「柴田コレクション」は個人が集めた染付や古伊万里が驚く量で陳列されている。有田焼の魅力を堪能するところだ。
 有田の町の中心、札の辻あたりで車を降りた。また勉強のつもりで有田陶磁美術館を訪れる。すぐに目についたのは、職人尽くしの大皿だ。有田焼が造られる工程が呉須で丁寧に描かれたもので、世界に二枚しかない。これと絵柄が似たもう一枚の職人尽くしは大英博物館に所蔵。小さな美術館だけど、石造りの古い倉庫を利用した味のある建物だ。
 その横あいからトンパイ塀の小道が続いている。ゆっくりと散歩をお勧め。「トンパイ」とは、昔の窯を壊した後のレンガやトチンを利用した、まさにリサイクル。自然の釉薬が見事な飴色に焼きついて、なにげない路地の風景が心を落ち着かせてくれる。二十分ほど歩くと、大きな銀杏が見えてきた。樹齢1000年という。秋には見事な黄金世界をつくりだす。
 このあたりは泉山地区で、朝鮮の役で連れてこられた李参平によって白磁鉱が発見されたところ。天草石が使われるようになるまで、ここの石から無数の古伊万里の名品が生み出されたのだ。
 元の場所に戻って『陶祖神社』に行った。階段を上ると参道を鉄道が横切っていて驚く。そして急な階段を上ってさらに驚かされた。鳥居も狛犬も染付磁器で作られているのだ。
 だいぶ歩いたしお腹もすいたので、有田ダムを通って竜門に向うことにする。ダムの湖畔をめぐる道沿いには桜並木が。春になると見事な美しさを見せるだろう。
 黒髪山への登山口でもある竜門峡。ここにも桜の名所の竜門ダムがある。そのダムの上と下に鯉料理の料亭がある。元祖をうたう料亭の「龍水亭」と、離れが林の中にある「龍泉荘」。食べなれない鯉料理だが、辛い酢味噌で食べる鯉の洗いはあっさりして美味だった。


佐賀県立九州陶磁器文化館は無料なので、ぜひ訪ねて欲しい。有田がいかにすごい町か知る。
有田焼の祖は李参平と言われ、陶祖として祭られている。磁器で出来た鳥居は珍しい。
有田の中心、札の辻にある陶磁美術館。古い石づくりの倉庫を利用して作られている。
蔵づくりの商家が並んだ本通り。後世に残すべき重要伝統的建造物保存地区だ。
樹齢1000年の大公孫樹は国指定の天然記念物。高さ40m、秋の色づきは見事だ。
泉山の磁鉱石が発見されたことで、有田は磁器生産日本一の町となった。国指定史跡。
「黒髪山の大蛇退治」の伝説ある有田ダム。「秘色(ひそく)の湖」とうたわれた。美しいダム湖。
竜門ダムの傍にある鯉料理の店で、辛子みそで食べた鯉の洗いは美味だった。


掲載日:2008年03月07日