文人も訪れた炭酸泉の長湯温泉から
豊後竹田の城下町へ

プチプチとラムネのような泡を出す炭酸泉があると聞いて、
長湯温泉まで行こうとするけど、日帰りではちょっと大変。
さあ、どこで高速を降りたら一番近いかな。
「日本一の炭酸泉と言われる長湯温泉は、その歴史を紐解くと『豊後風土記』まで遡る。芦川のほとりに湧いているのだ。河原の『ガニ湯』は無料だけど、入るには勇気が必要だ。

文人も訪れた炭酸泉の長湯温泉から

豊後竹田の城下町へ


 豊後竹田の北にある直入町(竹田市に合併)に、最近話題になっている『ラムネ温泉』があると聞いて、梅雨気分を洗い流そうと出かけた。ガイドブックにはラムネ温泉だの、世界に珍しい炭酸泉と書かれているけど、やはり遠すぎて日帰りドライブには根性がいるよなあ。
 湯布院ICで降りて、由布院の町を抜けて湯平温泉の方へ向かう国道210号線を辿る。庄内町を過ぎて山道の県道30号を行くけど、芦川ダムの近くでようやく風景が開け、『水の駅』という地元物産を売る広場があった。見ると、ポリ容器を積んだ車がたくさんある。ここは『小津留(おづる)湧水』という名水だ。そこからもう一つ峠を越えて、直入の長湯温泉に到着した。
 大仏次郎が「これぞ、ラムネの湯だぜ」と紹介したそうで、炭酸泉が清流芦川沿いに湧いている。河原に露天風呂がポツンとあって、『ガニ湯』と呼ばれている。なぜかブクブクと蟹のように泡立ったお湯で野趣味豊かだ。通行人からも見られるけれど、無料だから勇気を出して挑戦はいかが。
 与謝野晶子や徳富蘇峰、川端康成とここを訪れた文人は数知れず。種田山頭火も湯を楽しんだようだ。  『ラムネ温泉』は建築家・藤森照信教授による斬新なデザインだ。焼き杉と漆喰と、手捻りの銅版で外装されている。少しぬるいけど1200PPMと高濃度の炭酸泉。泡が肌についてプチプチはじけるよ。
 せっかくここまで来たから、『荒城の月』の岡城址がある豊後竹田まで行こう。竹田は山に囲まれた盆地の町で、「レンコン町」と呼ばれるほどトンネルが多い。竹田の町に入るにはどこから行ってもトンネルを抜ける必要がある。古い城下町で、江戸初期から中川家が治めた。古を忍ばせる武家屋敷通りがあって、崩れそうな土塀が続いて鄙びた風景を見せている。
 岡城は石垣だけが残る。急な坂を前傾姿勢で登城すると、巧みに築いた石垣が覆いかぶさるように聳えて、まさに荒城の跡だ。『荒城の月』は竹田で幼少期を過ごした瀧廉太郎がこの城に着想を得て作曲したという。いまにメロディーが聞こえてきそうな静けさだ。
 北に久住山、西に阿蘇山、南に祖母の連山があるため、竹田一帯は湧水があちこちにある。それを巡るだけでも面白そうだ。『河宇田湧水』『泉水湧水』が竹田の近くにある。緒方川沿いには石橋もあって、小さなナイアガラのような『原尻の滝』があり、近くには『原尻めがね橋』もあった。
 最後に『普光寺磨崖仏』を尋ねる。細い道を谷までに下りると、夕暮れが迫るアジサイの庭の向こうに、大きな仏が岩肌に刻まれていた。ああ、仏の懐まで来た遠いドライブだった。


小津留湧水の水量は豊富で、大きなポリ容器をもってたくさんの人が来ている。
肌にラムネのような気泡がつくことで「ラムネ温泉」と呼ばれる。ギャラリーもあって500円。
誰でも入れる「長生温泉」は200円でどうぞ。
大手門の坂を上りきると、聳える石垣が迎える。まさに荒城だ。
岡城址にある「瀧廉太郎」の像。まさにその歌はこの城のイメージにぴったりだ。
鄙びた佇まいの武家屋敷通り。この近くには隠れキリシタンの伝説がある洞穴も。
まさにナイアガラ滝のミニチュアのような、しかしかなり雄大な「原尻の滝」
普光寺の磨崖仏は鎌倉末期のものと思われる。アジサイの庭が美しい。


掲載日:2006年07月25日