こんな近いのに、さまざまな遠くへ時間旅行が出来る平戸

空海、栄西、隠れキリシタン、南蛮貿易、鄭成功が生まれ、 ウイリアム・アダムスがいた平戸。
さまざまな歴史の断片が島のあちこちにあって見所満載だ。
平戸城の天守閣から望む平戸海峡。この狭い瀬戸を、王直のジャンク船やオランダ貿易の船、咸臨丸なども通ったと思うと、想像の旅が始まる。
平戸城入場料500円。

こんな近いのに、
さまざまな遠くへ時間旅行が
出来る平戸

まず目につくのは平戸城だ。再現されたものだが、海峡に望んで建つ姿は過日の繁栄を彷彿とさせる。天守閣から望む平戸海峡はまさに一幅の絵画だ。海峡から左に首を向けると、オランダやイギリス貿易の船、中国のジャンクも浮かんだ港。  藩主の館だった松浦邸に行く。そこは「松浦史料博物館」で、さまざまな資料を展示している。なにしろ狩野探幽作の屏風まであるのだから、見ごたえあるよ。平戸焼(三川内焼)や、南蛮貿易の異物、大名の華麗な生活の一面がうかがえる。  「閑雲亭」でお抹茶を一服。藁葺きの趣ある茶室だ。松浦家は鎮信流茶道を生んだところで、そこに伝わる「百菓之図」をもとに再現された江戸時代の茶菓子が供される。  博物館の前の通りには、平戸ゆかりの歴史的人物のオブジェが並んでいる。コックス、王直、ザビエル、三浦按針。蒼々たる歴史上の人物が小さな港町を彩っているわけだ。  一画にあるのが詩人・藤浦洸の歌碑。西海讃歌の「空いっぱいに」の詩で知られる彼は平戸の生まれ。歌碑の傍に無料の足湯があった。  市内を一望する崎方公園に登る途中、ザビエルの記念碑がある。布教のために四度平戸を訪れたザビエルだったが、その信徒がのちに隠れキリシタンとなって、重い歴史の一パージを刻むことになる。  平戸島を南下する前に、北にある「田ノ浦温泉」に行った。弘法大師が発見したという謂れの鉱泉だ。近くの岬に「渡唐大師立像」が立っている。渡海する前に訪れたということだろう。  県道19号線を南下すると、栄西禅師が中国から茶の実を持ち帰り、日本最初の茶を栽培したという「冨春園」があった。  そして紐差教会に至る。丘の上に立つロマネスク様式の天主堂。観光より、まさにいまも信仰の場所だ。  紐差から西に折れて根獅子へ。堤防が作られ、昔の遠浅の海の見事さを知る人にはなんとも味気ないが、この村は隠れキリシタンの伝承がある。殉教者の墓という「おろくにん様」の聖地が「切支丹資料館」の背後にある。  今回の旅で思わぬ発見をしたのが、「塩づくり」の現場だった。根獅子から獅子に向かう途中の小さな浜に、「塩炊き屋」という今井さん夫婦がやる塩づくり現場があった。訪ねたときはちょうど、塩を煮詰める作業中。 「自然林が近くにあって、砂浜が綺麗で、外海に面していることが塩づくりの条件です。ここは最適ですね」  それまで今井さんは天草で塩を作っていたそうである。もっと詳しく塩づくりのことを聞きたいので、また別の機会に取材をしたいものだ。  天然の塩をお土産に、平戸の半分を巡ったドライブは終わり。近いからと侮れない。平戸は思ったより広く、さまざまな切り口を持つ奥深い島だ。

1550年に平戸に来たフランシスコ・ザビエル。多くのカソリック信徒を得たが……。
港から松浦史料博物館に向かう道には歴史のモニュメントが。温泉の足湯もあるよ。
松浦史料博物館に展示されている戦国時代の武具には国指定重要文化財もある。入場料500円。
根獅子に切支丹資料館がある。おろくにん様は殉教の聖地。
紐差教会はロマネスク様式。町の中心にそびえて信仰を集める。


掲載日:2006年02月24日