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2012年07月14日

「CCライダー」


50CCライダーのわたくしは、ときどき後方車両からあおられたり、クラクションを鳴らされたりいたします。


何ごともスピードが問われる時代、原付という乗り物はもはや公道において中途半端な存在になりつつある、と感じながらスロットルを回す日々。


控えめに道路端っこを走っておりましたところ、後方にワゴン車がスピード上げて急接近。追い越したいようですが、対向車やカーブが多くなかなか抜けず、わたくしの後ろにぴたりと着いて参ります。


わずか数十秒のことですが、長く感じるラリー。掌に汗が滲む緊張感を味わいながら運転しておりましたところ待望の直線で対向車がとぎれました。


その瞬間、ワゴン車はグウォ〜ンとアクセルをふかして猛スピードで、わたくしを追い越し、レーサーのようにさらに加速。見る見る遠ざかってゆきます。


緊張がほぐれ一安心。マイペース走行に戻ったその時、わたしが見たものは、なんとなんとトホホのホ……。


走り去るワゴン車のリアウインドに一枚のサインプレート。そこに書かれた文字はみなさまご存じの「赤ちゃんが乗ってます」でございました。トホホのホ。

2008年03月11日

「佐世保バーガーの逆襲」


「本当にあったトホホな話・第7話 〈佐世保バーガーの逆襲〉」


 先日、発泡酒を飲みながら、みのもんた様が司会をお務めになられるバラエティ番組を眺めていたときのことでございます。高台から撮影した佐世保湾と市街地の映像が写りました。おやおや!? なにごとでございましょう? と音量を上げてみると、佐世保市ではお酒を飲んだ後に、あるものを食べてシメる習慣があります。さてそれは何でしょう? みたいなノリのお題で夜の街をレポートしてありました。

 ほろ酔いスーツ姿の立派な紳士方が向かったのは寿司屋でも、ラーメン店でもなく、とある一軒のお店。そこはハンバーガーショップでした。全国的に大人気を呼んでいる佐世保バーガーを皆さん揃って、美味しそうに召し上がっていらっしゃるではありませんか。

 番組には有名店2軒が登場。いずれもネクタイをしめたサラリーマングループが映し出され「子どもの頃、飲みに行った父親がよくハンバーガーを買って帰ってきてましたもんね」と大きなハンバーガーを頬張っていらっしゃいます。番組ではさらに、アーケードで市民アンケート調査も実施、ラーメンとハンバーガーほぼ互角という結果でございした。

 佐世保で生まれ育ったわたくしは、 「へぇ〜すごいなぁ〜、我が家では酔っぱらった父親がハンバーガーを手みやげに帰ってくるなんて、洒落た光景はなかったよ……」と、他人の家庭を羨望するちびまる子ちゃんみたいな心境で発泡酒を飲み干し、「おい、マジかよ…俺はハンバーガーより、やっぱり茶漬けかおじや、雑炊だな。フェ〜ッうまい」と父ヒロシみたいな酔っぱらいの戯言ひとつ呟いてみたい感覚に襲われたのでございます。

 告白いたします。恥ずかしながら、わたくしは佐世保市に住みながら、飲みに出た際、ハンバーガーでシメた経験がほとんどないのでございます。若い頃、真夜中にバーガー、ポテト、ホットサンドやコーヒー飲んでタクシーに乗ったことはあったかと思うのですが、ここ10数年、「よし最後はハンバーガーでシメようぜ!」というグルーブ感を経験した覚えがありません。とにかく深夜にバーガーショップに赴いて何か食べてた記憶が極端に少ないのでございます。

 個人的にシメより飲みケイゾク根性が強いわたくし。つき合いでラーメン店に座っておりました記憶の方多いのでございます。

 正直、数年前に噂は聞いたことがあったのですが、「まさか?」と高を括っておりました。それが、全国ネットのテレビで紹介されるほど多くの市井が佐世保バーガーでシメている現実を知り愕然。この街で生きるひとりとして常識や習慣からずれてしまっていた己の愚かさを悔い改めねばなりませぬ。恐るべき佐世保バーガーにトホホのホでございました。

※追伸
飲み仲間の皆様! このテレビ番組が報じた現象は誠なのですね? ここまで浸透した佐世保の慣習=トレンドをなぜ、わたくしにだけ教えてくださらないのでございますか? 気づかぬわたくしが不甲斐ないのは重々承知。しかし、皆様が誘ってくださればわたくしだって、喜んで、頑張って、踏ん張って本場米国の流れを組む「挽き肉野菜の穀物包み」のお味にお付き合いたしますのに……トホホのホ。

2007年10月29日

「本当にあったトホホな話6」

第6話  〈身代わり地蔵〉※第5話からの続き

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 家路へ向かう早朝のタクシーの中で、携帯電話がぶるるると振動。ヤヨ様からです。「路上居眠り」「財布紛失」の状況を手短に説明したところ、最後に立ち寄った居酒屋の会計時に「ここは、わたくしが払います」「いやいや、わたくしが」という、よくあるやりとりがあったそうでございます。その時まで、わたくしはストーンズベロ印の財布を持っていたと言うことでした。結局、そこではヤヨ様が支払いを済ませたそうでございます(もしかすると、わたくしはこの時、自分が支払おうとして財布から一端取り出した紙幣を、胸ポケットに収めたのかもしれませぬ)。

 また、店を出てから、わたくしが、しっかりした足取で戸尾方向に向かって歩く姿をヤヨ様はタクシーの中から目撃したと教えてくれました。「あ〜、しばらく歩いてタクシーを拾うんだろうなぁ」と思ったそうです。どうもその直後、わたくしは一休みするつもりだったのか、京町バス停のベンチに腰を下ろしてしまったと思われます。

 午後、最後の居酒屋へ望みを託して電話。昨夜、レジや出入り口付近で財布の落とし物がなかったか尋ねてみましたが、ここにもありませんでした。結局京町交番で紛失届けを提出した財布は出てきませんでした。
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 この情けない顛末を、現在京都で暮らしている、わたくしが心の革命同士と仰いでおります、詩唄い楽士のともぞう殿(長野友美嬢)へ電文したところ次のような励ましとも説法ともつかぬ返文がございました。まことに意味深く、詩情あふれる内容で、何度も噛みしめながら読みなおした次第であります。その受信電文をそのまま写し記したいと思います。


        ※以下〈ともぞう殿からの電文〉
 
 
 慰めにはならぬかとは思いまするが、身代わり地蔵というものでありましょう。御身、もっとでかい大事なものを失っておられたやもしれませぬ。
 
 いや冗談でも大袈裟でもなく、またポジティブシンキングなんてナマな思考方を勧めておるのでもなく、ひどい損失を得た時というのは己の運、すなわち先祖の守りが、さらなる災厄より救いたもうた時でありまする。身代わり地蔵でござりまする。

 そつなくお利口に飲んで帰れなかった夜に乾杯。物書き、記者の魂の遊鬼に乾杯。秋の入口の、ほんの隙間に冴え冴えとした夜があり、私もうっかりはまってしまいました。お金もないのに、ひとりで飲みに行き、ばったり会った知り合いに、おごりで飲ませてもらいました。その知り合いも、どこか冴え冴えとした影を背負っていて、あぁこれが秋がやって来るって訳かと思いました。

 朝の七時に「治外法権」という店が閉まるまで、レコードを聴きながら時折、呟くように語りながら、赤茶けたチンザノロッソを飲み続けていた、そんな夜がありました。安らかに眠る人々がある中で、そんな夜に呼ばれる人もいるのでしょう。

 彼らの心が夜更けの木屋町の看板に火を点し、京町、山県町のネオンの下に呆っと立ちつくしております。しゃがみこんだまま動かぬ人、不器用なシュプールを描いて歩いていく人、無人のコインランドリーでは路上生活者が重ね着する服を物色している。私は油断して風邪をひきました…。

 地球屋が楽しみです。それではお体気をつけて、秋の玄関口で会いましょう。(了)

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※実はともぞう殿は、その十日後になります十月八日に急遽、京から我が藩に戻られ「地球屋」を会場に楽会をお開きになりました。京の都で腕を磨かれたお姿をひと目拝見したかったのですが、定刻にたいそう遅れまして、足を運ばずじまいになってしまいました。電文、電話にて詫びようとも思ったのですが、どこかいい訳じみた伝達になるのが、歯がゆく、そのまま時間が過ぎ秋の玄関口は逃げてしまいました。

 遅くなりましたが、ここでお礼を一言。「身代わり地蔵」のおかげで、わたくしは大村試験場で免許再交付、親和銀行でカード再発行を済ませ、支障なき日々を送っております。近々、図書館カードや歯科診察券の再発行したいと思っております。ともぞう殿の言われる「身代わり地蔵」に感謝しております。ありがとうございました。〈完〉   (神無月)

2007年10月19日

「本当にあったトホホな話5」

第5話   〈トッケン〉 ※第4話からの続き 
 
 
 九月二十九日、土曜日、午前五時半過ぎ。空は明らみ、国道の車輌もヘッドライトを消灯。往来が少しずつ増し、一日の始まり風景に転じております頃、わたくしは独り京町バス停留所の赤いベンチに腰かけて七星特別仕様薄味を胸ポケットから取り出しました。ありゃ……なんだこりゃ? ポッケの中に紙の手触り。なんと紙幣でございます。折り曲げたお札が二枚。計一万一千円が突如、出て参りました。わたくしはマギー司郎か? ゼンジー北京か? はたまた酔うて意識をなくした約二時間の空白に困惑しながら、ぷかり、ぷかりと名曲『浮雲男』を思い出しながら、煙を吹かしておりました。

 ここで、ターボさん登場。「なんしょっと〜」と、優しい笑みは、その時のわたくしには天使の微笑みにも感じられました。記憶のある範囲で状況を説明すると、ターボさんは、最後に出た大型居酒屋店からベンチまでのわたくしの足取りを再検証。もし、財布だけ何者かに抜き取られたとしたら、と戸尾市場の公衆トイレあたりまで、沿道の花壇やゴミ箱類を捜索してくれました。その姿は名探偵金田一耕助のようでもありました。「なかね、交番に行こう!」ということで、二人で京町交番に向かいました。

 佐世保一の歓楽街である夜店公園通りの一角に位置するこの交番。なぜか地元のでは“トッケン”の異名で呼び親しまれております。由来は、その昔ここに“特別憲兵隊”があったから、と聞いたことがありますが、確かなところは存じません。ただ現在も「トッケンの所まで」とタクシー運転手に告げれば、ちゃんと到着いたします。tototo.JPG

 一人の飲兵衛の愚行に早朝より四、五名の警察官が対応してくださいました。状況説明したところ、この場合は盗難届けでなく紛失届けが妥当だろうということになりました。「どんな財布でしたか?」「いくら入ってました?」と質問が繰り返されます。財布はワイワイ貿易でシャレで購入したローリングストーンズのベロデザインでしたので「黒い布製で、ローリングストーンズのベロがいっぱいプリントされています」と返答。「!?えっ…あっ、ローリングストーンズ柄ですね」と警察官。給与が支給されたばかりで、必要な現金を全部入れておりました。いつもは二、三千円しか入っていない薄っぺらな財布、昨夜に限って約五万円も入っておりました。飲み代にいかほど使ったか? 胸ポケットから出てきた裸札をさし引き「まだ三万円近くは入っていたと思います」と返答いたしました。

 己の不始末でありますので、現金は諦めるしかありません。が、自動車免許証、保険証(健康保険被保険者証)、キャッシュカード二枚、歯科の診察券、佐世保市立図書館カードほかビデオレンタルカードやポイントカード各種が一緒に入っていたのが心配でございます。そうです。本日よりわたくし車も原付自転車にも乗ることができなくなる訳でございます。トホホのホ。これは困った不自由ですぞぉう。週明けから仕事ができないではありませんか。お〜神よ、どうか免許証、カード類だけでも出てきますように。とお祈りしているうちに紛失届けの書類が完成。ターボさんと京町交番を後にしました。

 時刻はもう六時を過ぎております。爽やかな土曜の早朝。意気消沈+酔い疲れを背負って再び現場へ。市場ではシャッターが開く音が聞こえて参ります。もしや最後のお店で置き忘れ、落とし物の恐れも考えられますが、もうとっくに閉店しております。本日夕方にも電話で確認してみようということになりました。

 それにしても、なぜ胸ポケットに一万円一枚と千円一枚が入っていたのか? 謎は深まるばかり。連れのヤヨ様の記憶も大事になってまいりましたが、まだ連絡がとれません。幸いにもこのお金で十分タクシーには乗れますが、このまま家路というのも、なんだか後味が悪く、わたくしは「ターボさん朝市に行かん!」と一声かけました。「あいよ、よかよ」といつもの調子で明るく応えてくれました。

 水揚げされたばかりのウチワエビやカニが蠢く姿、茄子や南瓜、牛蒡…。高島ちくわ、スボ…。屋台に立ち上る鍋の湯気…。いろんな食材と働く人々の動きを見ているうちに、少し気分が紛れてまいりました。そうだ。♪ぼくらはみんな生きている、生きているから笑うんだ〜みたいな気分が甦ってまいりました。「朝飯食おうか!」「おぉ、よかよ」朝の空気に映える赤文字の「めし」という暖簾。よしだ食堂にレッツ・ゴー。ターボさんはアジの開き定食、わたくしは、豚汁定食を食しました。

 タクシーでターボさんをお店に送り、いよいよ自宅へ帰還。車窓から街並みをぼんやりと見つめるわたくしの頭の中では、なぜか『本日、未熟者』のサビメロがリフレインで流れていたのでございます。〈つづく〉

2007年10月13日

「本当にあったトホホな話4」

第4話  〈こちら現場です〉

 
 九月二十八日の金曜日のことでございます。い〜ぜるで夕暮れ時から麦酒二本を飲んで、宴会の席に合流。がんがん酒をあおってお開き。二次会本体組と別れ、物書きのヤヨ様と「あと一軒参りましょうか!」と、南国食堂「地球屋」へ。するとうた唄いのMayumi嬢など顔見知りがおりまして、たいそう盛り上がり、ここでも麦酒ガンガン。

 続いて、ターボさんの音食亭へ。わたくし、また麦酒。ヤヨ様は噂のスープカレーチャンポンを初食、「あ〜ら美味しい。野菜いっぱいで菜食者の私にもぴったりですわ」とご満悦。とっくに午前零時を回っておりましたが、酔っぱらいの話は尽きず、「へぇ〜」「そうですかぁ」とヤヨ様も元気相づち打って付き合って下さいました。

 はて?わたくしはいったい何リットル程の麦酒を腹の中に注入したのでございましょう。ふだんは発泡酒、飲みに出ると本物の麦酒がぶがぶでございます。レギュラーガソリンを入れている車がいきなりハイオク満タン! と同様の状態だったのでしょうか、酔い冴えわたり、なかなか帰ろうという思考が働きませぬ。

 ターボさんの店を出て路地をしばらく歩き国道沿いに出てきた所で「おう、まだ開いている酒屋がありまするぞ!」と京町バス停近くの大型居酒屋店に入店。ヤヨ様ウーロン茶、わたくし麦酒でしめ。しばし雑談して「いや〜今宵は楽しゅうございました」とお別れすることに。ところが時間の感覚もなくした飲兵衛の記憶は、居酒屋を出てヤヨ様がタクシーに乗ったところで途絶えてしまったのです。

 目が覚めると、まず視界に飛び込んだのは高い天井。おぉぉ〜!? ここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここここ、は?どこやぁ〜? 知り合いの家とかサウナとかで目を覚まし、一瞬戸惑うのとはまったく違うスケールの光景にここは部屋じゃないと直感。天井に見えたのはなんとアーケードの屋根であります。呆然として周囲を見回すと「もち吉」という看板が……。

 なんたる不覚。わたくしは京町バス停辺りの路上で寝入ってしまったのであります。慌ててポケットの携帯を取り出してみるとなんと午前五時過ぎ。!? 冷や汗というか、生温かい汗が全身に泡立つ不吉な気分に包まれます。


 あ〜、やってしまいました。これはキツネにばかされたか? 飲兵衛一生一大の不始末。わたくしは一体何時間寝てしまったのでありましょう? おっ、マイバッグがない。立ち上がりもう一度辺りをゆっくり見回すと、ありました。ありました。わたくしのバッグがあんな所に。数メートル離れたバス停ベンチに黒い鞄がぽつりと置き去りになっております。いやいや、急がねば、もう朝でございます。早う帰らねば。とバッグを手に取り、タクシーに乗ろうとバックの中に入れておりました財布を捜しますが、あ〜恐ろしや。何度探しても財布だけ見当たらないのでございます。
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 とりあえずヤヨ様へ電話。留守電でございます。「…、起きたら、バス停で……財布がなくて…」あぁ〜何を意味不明の台詞を爽やかな夜明けにぼそぼそと呟いておるのでしょう。あわれなオヤジでございます。あ〜れぇ〜!? どうしましょう!! どうしましょう!! わたくしは何というお馬鹿さんでございましょう。独りベンチに腰掛け携帯電話をいじりながら、地団駄踏む思いで、己の心に「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿」と雄叫びを上げながら、リダイヤル履歴を見て愕然としてしまいました。
 
 ヤヨ様へ発信したつもりが、電話帳の一つ上に登録されていたまったく今宵の出来事に関係ないNさんの携帯へ発信してしまっていたのです。もし再生されたら、早朝に届いた薄気味悪い男の声にきっと気味悪い思いをされるでしょう。こうやって、わたくしは友人知人をなくしてしまう愚か者に成り下がるのでありましょう。何という間抜け。なんというボケナス野郎。

 気を取り戻し、ターボさんへ電話してみると。ツルルルルン!ツルルルルン!の呼び出し音のあと、「お〜い、なんしょっと?」と元気な声が返ってきました。「あぁ〜ターボさん起きとったと?」「うん、今から寝ようってしよった」事情を話すと少し笑いながら「君はおもしろ過ぎばい! 今からそっちに行くけん」と駆けつけてくれることになりました。〈つづく〉

※とある一人の飲兵衛が去る九月二十九日、土曜日未明にとんだ不始末を起こしてしまいました、こちらがその現場です。戸尾市場につながる国道沿に位置するこの場所は昼間は買い物客などで賑わいを見せますが、歓楽街から道路を隔てておりまして深夜になると人影もまばらになると言うことです。タクシーも停車しますが、沿道に花壇なども並んでいてドライバーからは死角になる、ちょうどこのベンチの当たりで飲兵衛は、昏睡状態になったものと思われます。以上現場からでした。      (神無月)

2007年06月25日

本当にあったトホホな話3

第3話    〈赤いみどり事件〉 


 もうずいぶん昔の出来事でございます。高校時代の級友の結婚式に招かれ福岡を訪れました。久しぶりに再会した旧友たちと酒を酌み交わし新郎新婦を祝福後、九州各地に散らばった友等とホテルのロビーで再会を誓い、それぞれ帰路へ向かいました。
 
 わたくしはJR「みどり」で佐世保へ。ちょうど諫早から訪れていたS坊と同じ道筋。列車の道中、「みどり」と「かもめ」の車両が切り離される肥前山口まで、二次会気分で麦酒でも飲みながら語りましょうとタクシーで博多駅へ走りました。
 
 キオスクで缶麦酒やちくわなどを買い込み乗車。引き出物袋を床に据え、上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、車窓縁に缶麦酒とつまみを並べ準備万端。発車までまだしばらく時間がありまする。私は無性に汁物を食したくなり、S坊に「うどんば食わん?」と問いかけました。

 「じゃ、おいが買ってくっけん!」と、わたくしはホームに走り、売店にてうどんを2杯注文いたしました。「はい!おまち」と売店のおばちゃんの威勢のよい声と同時にまず1杯目のうどんを受け取りました。続いて2杯目を手に取ろうとした瞬間……。

 あぁ〜なんと恐ろしいことでございましょう。湯気をたてる白いポリ容器を両手に持ち、振り返ると「みどり」の乗降口が閉まり、ホームをゆるやかに滑り出した赤い「みどり」のボディ……。その切ないスローモーション映像のような光景は今もくっきりと、わたくしのデータファイルに収められております。

 ホームから消えた赤いみどり。わたくしの両手には、できたてのキツネうどん。なぜか分かりませんが、その時、わたくしは自分の置かれておる状況ではなく、カップ麺の赤いきつねと緑のたぬきのことを考えてしまいました。
 
 赤色の列車みどり号と、うどんのことで頭が錯乱してしまったのでしようか。赤いきつねと緑のたぬきが、どちらがうどんで、どちらがそばだったのか分からなくなって、一生懸命そのことを考えたのであります。syu-.jpg

 しばらくして、思考は冷静さを戻りました。まず売店のおばちゃんに列車乗り遅れたことを理由に、うどん一杯を返品(状況を察して快く返品を受けてくれた)。残りの一杯を立ち食いしてから駅員を捜しました。

 そうです。その時代にはまだ携帯電話というものは普及しておりませんでした。駅員に事情を告げ、次の便で後を追うことに。走り去ったみどりに無線で連絡をとってもらい、S坊にアホな連れの失態を告げてもらいました。

 その後、駅員を通じS坊に連絡がとれたという返答。わたくしが車内に残した引き出物や上着の類は、停車時間が最も長い肥前山口のホーム上の駅員詰め所みたいな場所に置いておくので、そこで素早く受け取ってくれということが駅員から伝えられました。

 まるで身代金やスパイ映画の引き渡しのようなスリリングな光景を思い浮かべながら、わたくし次のみどりに乗ってひとりぼっちで博多駅を後にしました。

 肥前山口で受け取ったわたくしの所持品。S坊が気をきかしてくれたのでしょうそこには博多駅で買った、缶麦酒とちくわも添えてありました。。その後、彼には詫びの電話はしたものの、それきっきり会う機会はないままでございます。

 S坊様、お元気ですか?あれから何年経ちますかね。本当にトホホなわたくしの愚行でお世話かけました。5,6年前に開かれた北高の同窓会に出席されるかも、と思いわたくしも初めて同窓会というものを体験しました。が残念ながらS坊は欠席されていました。幻の二次会、幻のうどん(わたくしは食いましたが…)。いつの日か実現させたいものです。
  (水無月)

2006年11月16日

「本当にあったトホホな話2」

第二話 〈真夜中のこんばんは〉
 
                      (1) 
 酒屋でたらふく飲んだ帰りのことでございます。数件はしごいたしまして、最後に残ったハウリンD氏と晴さん、わたくしの三人で談笑しながら湊町から島瀬公園あたりまで歩き「そいじゃまた!」と別れました。
 そこでタクシーを拾おうと考えたのですが、所持金が心もとなく「ワンメーター分ほど歩いて浮かすくわ〜っ」と、四ヶ町アーケードを抜け佐世保駅へ。「なかなか歩けるじゃないくわ〜っ」と酔い気分。自販機でブラック缶コーヒーを購入。「本気のブラック!」みたいなキャッチコピーを眺めながら「何?今までのは本気じゃなかったってくわ〜っ」と酔い強きで、七星特別仕様(1本15円)に火を灯し、ベンチに座って煙り、珈琲、煙り、珈琲で酔い覚まし。「この調子ならもうワンメータくらい歩けるぜ」と、深夜の夜道を♪歩こ〜う、歩こ〜う、わたしは元気〜。おっ!! こっちが、ちょいと近道か? と路地に入りタクシー料金浮かし作戦を続行していたまさにそのときでございます。
 
                      (2)
 背後から黒い車がスーッと近寄り停車。中から男が二人降りて来て「こんばんは〜」の声をかけながら、わたくしの方に近づいてきたのです。なんだ!?  こんな夜中に? ナンパか? 警戒しながら佇んでいると。「警察です。こんな夜中にどこに行きよらすとですか?」♪迷子の迷子の子猫ちゃん〜こ〜んな夜中にお巡りさん。「何かあったんですか?」とっさに口から出るのはめちゃベタな常とう句。「いや〜こんな時間にどこへ行かすとかな〜と思ってですね」「……飲んで家に帰るところです」「あ〜そうでしたか。家はこの辺ですか?」「いや○○町です」「そこまで歩くんですか?」「いやもうそろそろタクシーに乗ろうかと思ってました」「あ〜酔いを覚まして帰りよらすとですね」maki.jpg 違う。タクシー代を2〜3メーター浮かそうと思って歩いています…なんて言えません。言えません。いい大人がかっこ悪いじゃありませんか。と思いながらも覆面パトカーって家まで送ってくれるのかな? これまた横しまな思いが沸き上がる始末。


  (3)
「一応免許証か何か見せてもらえますか?」「はい」身元確認を受けながら、わたくしは気になっていたことを警察官に訊ねてみることを決意したのでございます。「あの〜僕って、そんなに怪しいですか?」「いやいや、こんな夜中ですからね。私たちも声をかけんばとですよ。この辺は盗難や窃盗がわりと多くて」これは社交辞令でしょうか?するともう一人の警察官が「いや、こんな夜中に下をうつむいてションボリして歩きよらしたけんですね」と補足コメント。
 ……うつむき。ションボリ。トホホのホ。うつむき。ションボリ。トホホのホ。己では♪歩こ〜う、歩こ〜う、などと陽気なストリートマンを気どっていたのに、端から見ると自殺でもしそうな? やっぱり怪しい深夜の徘徊者だったのでございます。トホホのホ。         (霜月)

2006年10月17日

「本当にあったトホホな話」

第一話 〈恐怖の左手〉 
 
 もう何年も前のことでございます。ある日。四ヶ町アーケードの本屋さんで文庫本を立ち読みしておりました。ところが、その日はいつもに比べ活字が非常に読みづらく、気になってしょうがありません。……もしや、乱視がエスカレートしたのでは、と目尻を細めて文字を追っておりましたら、ようやく焦点が合ったのでしょう、文章がスルスルとそうめんのように脳味噌に流れ込んできました。syu2.jpg 
 
 そうしてしばらく、立ち読みに耽ておりますと、あっ!?  肌が泡立つようなその時の恐怖をどう例えましょう。あ〜思い出すのも恐ろしい。文庫本を開き構えたわたくしの左手が……。ギャ〜ァ〜助けて〜! と心の中で絶叫でございます。 左手の位置がヘソの近くまで下がっているではありませんか。
 
 あ〜なんだこれは。これまで本を眼孔に近づける動作は覚えがありましたが、こんなに離して読んでいるわたくしは一体何者でございましょう? これぞ老眼の恐怖だったのでございます。トホホのホ。

 ちなみに、昨年、知人より届いたメールの絵文字が初めて目にするもので、何を意味するものか分からず、解読に困り果て携帯の液晶画面を虫眼鏡で覗いてしまいました。トホホのホ。絵文字は急いでダッシュしている人の姿でございました。
 
 まだまだお聞かせしたいトホホば話が、きのこの山ほどございますが、わたくしそろそろ発泡酒を飲むお時間がまいりましたので、今宵はこれにて失礼いたします。ごきげんよう。     (神無月)