2014年07月12日

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赤ちゃん日記(17)

ファンタスティック・ハイハイ


カーペットの上で腹ばいになった菜々子が両手をつき、ゆっくりと顔を持ち上げた。

「ほらお父さん見て見て、ななちゃんがほら」

玲子が興奮した声で修次を呼んだ。

「おっ!ななちゃん!」と修次が傍らに駆け寄る。

「ここからが問題さね」

玲子が菜々子に顔を近づけ真剣なまなざしで見守る。


これがハイハイの始まりだ。

「よ〜し頑張れ〜」
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エールをおくる両親に向かい菜々子が「パブウ〜」といくらチャンみたいな声を愛らしく頬笑んでいる。

「見て見てかわいかよね」

菜々子のしぐさに玲子が修次の肩をたたきながら声をはずませる。


……うむ。確かに可愛い可愛くてたまらない。つらいことも一瞬に忘れてしまう至福の瞬間だ。


できればいつも今のような可愛い菜々子でいて欲しい。どうしてぐずったり、夜泣きで困らせたりするのだろう?


いや、自分だってきっと同じように父母をあれこれと悩ませ育ったはずだ。と頭では分かっているのに、泣きやまないわが子にげんなりしてしまう現実がある。


そういうとき、二十四時間子どもと一緒に過ごす母親たちが時に育児ノイローゼーに陥る心境も少しわかる気がする。


♪人生楽あらりゃ 苦もあるさ〜の歌の通り、子育ても山あり谷ありなのだ。


だが、われわれ男衆はこと育児に関して「苦」を避けている傾向も強いのではないだろうか……。可愛いシーンに触れるのもよいが、母親の目に見えない苦労も想像し、理解するという精神的サポートが案外大事なのかもしれない。

「お父さん! なんばボサーってしとると」

「あ、ごめんごめん。そうだっ。ビデオば撮ろうか!」

「そうね。最近撮しとらんもんね」

液晶画面の中に腹ばいになで手足をばたばたさせる菜々子の姿が浮かび上がった。バタフライのような動作がこれまた愛らしい。

「あらら、ななちゃん、反対よ。前に進まんば」

玲子の指令を振り切り、菜々子が突然お尻を振りながらバックを始めた。


まだうまく前進できないが、こんなに小さくても自力でわが身を移動できるようになったのだ……。


赤ちゃんってほんとうにすばらしい。

2014年07月10日

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I LOVE YOU

2014年07月01日

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真夏のDJ

2014年06月25日

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パパの赤ちゃん日記(16)


真夜中のドライブ

オムツも替えた。寝巻きも変えた。ミルクも飲ませた。が、眠ったと思うとすぐ火がついたように泣く。


午前二時十八分。修次と玲子は重たい瞼をこじあけながら、部屋中に轟く泣き声を聞きながら途方にくれていた。

「やっぱい、どこか具合のわるかっちゃろか?」

玲子が『赤ちゃん育て方百科』のページをめくりながら心配そうに呟く。


大人なら「頭いたい」「熱ある」「尻がかゆい」とか言葉で意思表示できるが、赤ちゃんの伝達手段は、泣く、もしくは笑うという動作が主だ。


いくら血がつながった親とはいえ、一体どこがどんなで、何がどうなのか、なかなか判断がつかない。
止まぬ泣き声という不安をかかえ夜は更けていく。

「よし! わかった!」
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修次は金田一耕助シリーズの等々力警部のジェスチャー付で平手を打った。


玲子はこの状況下でギャグをかます夫に一瞬あきれ、うつろな声で、

「なんがわかったと?」

「ドライブだよ! ドライブ! 会社の吉田センパイがいつか言いよらしたとさ。赤ちゃんは車の振動に安らぎを感じるって」

「ほんとね〜?」

国道から、みなとインターへ入り、大塔インターで下り、再び真夜中の国道を走っていると、菜々子が静かに眠りについた。

「さすが子どもさんを二人も育てとらす吉田さんね」と玲子が先輩のことを褒め称える。


黄色信号が点滅する交差点で朝刊を積んだバイクとすれ違う。

「うわぁ、もうこがん時間?」

自宅に戻り、布団に菜々子を寝かせ、修次と玲子は「ふ〜っ」と長いため息をもらしながら床に就いた。


それからどれほど時間が経ったのだろう。二人は再び菜々子の泣き声で目を覚ました。


カーテンが明るみをおび、もう朝が始まろうとしていた。(つづく)


2014年06月23日

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パパの赤ちゃん日記(15)

夢をつんざく泣き声

「今日はカボチャばたくさん食べたとよ」

顔にパックを貼った玲子が声を弾ませる。


生後8ヶ月を過ぎ、菜々子の食事も離乳食が増えてきた。


お座りが上手になった、お母さんといっしょを見て笑った……菜々子の一日の様子を聞くのも修次の日課だ。


カボチャの煮付けを肴に発泡酒を飲みながら、ニュースステーションを見て、玲子の話に耳を傾け、ときおり笑ったり、相づちを打つ。


主役の菜々子は今宵はもう夢の中だ。今日も健やかに育ったわが子に乾杯!!

犬がはっはっはっと喉を鳴らして修次の背後から近づいてくる。あっち行けよ、息をひそませ無視する。しかし、うう〜んという唸り声と同時に犬との距離はさらに縮まる。


恐怖に修次の背筋が粟立つた。


がうんがうんと牙をむく犬の咆哮。うわぁ〜たすけて〜襲われるぅ。うんぎゃあ、うんぎゃあ〜。……あれ? 犬じゃないの? 赤ちゃんの泣き声? 犬はどこ行った?


おっ、ここはわが家の寝室じゃないか。夢か……。実に恐ろしい夢だった。それにしてもうるさい泣き声。脳の芯までキンキンと響く超音波のようだ。

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こんな夜中に泣きじゃくるのは一体どこの子じゃい!! おれは明日もお仕事だ。豆球の明かりがかすかに灯る部屋に目をこらすと、薄闇の中に前髪をたらして佇む女性の輪郭が浮かび上がる。


お〜っ! 出たぁ〜。妖怪!おっ!! 貞子……いや玲子じゃないか。


うんぎゃ〜うんぎゃ〜。
ななちゃんどうしたの? お母さんに抱っこされてそんなに泣いて。


修次は布団からはね起き、照明器具の紐を引いた。突然眩しくなった寝室に修次と玲子は目を瞬かせた。

「眠らっさんちゃん……」

「熱は? どこか具合のわるかっちゃなかと?」

「分からん……」

寝ぼけまなこの玲子が困惑しながらあやしている。


もしかして、もしかしてコレがかの有名な夜泣きなのでは。(つづく)