パパの赤ちゃん日記(16)
【真夜中のドライブ】
オムツも替えた。寝巻きも変えた。ミルクも飲ませた。が、眠ったと思うとすぐ火がついたように泣く。
午前二時十八分。修次と玲子は重たい瞼をこじあけながら、部屋中に轟く泣き声を聞きながら途方にくれていた。
「やっぱい、どこか具合のわるかっちゃろか?」
玲子が『赤ちゃん育て方百科』のページをめくりながら心配そうに呟く。
大人なら「頭いたい」「熱ある」「尻がかゆい」とか言葉で意思表示できるが、赤ちゃんの伝達手段は、泣く、もしくは笑うという動作が主だ。
いくら血がつながった親とはいえ、一体どこがどんなで、何がどうなのか、なかなか判断がつかない。
止まぬ泣き声という不安をかかえ夜は更けていく。
「よし! わかった!」
修次は金田一耕助シリーズの等々力警部のジェスチャー付で平手を打った。
玲子はこの状況下でギャグをかます夫に一瞬あきれ、うつろな声で、
「なんがわかったと?」
「ドライブだよ! ドライブ! 会社の吉田センパイがいつか言いよらしたとさ。赤ちゃんは車の振動に安らぎを感じるって」
「ほんとね〜?」
国道から、みなとインターへ入り、大塔インターで下り、再び真夜中の国道を走っていると、菜々子が静かに眠りについた。
「さすが子どもさんを二人も育てとらす吉田さんね」と玲子が先輩のことを褒め称える。
黄色信号が点滅する交差点で朝刊を積んだバイクとすれ違う。
「うわぁ、もうこがん時間?」
自宅に戻り、布団に菜々子を寝かせ、修次と玲子は「ふ〜っ」と長いため息をもらしながら床に就いた。
それからどれほど時間が経ったのだろう。二人は再び菜々子の泣き声で目を覚ました。
カーテンが明るみをおび、もう朝が始まろうとしていた。(つづく)