05
海からの風に吹かれて
« 2012年04月 | メイン | 2012年06月 »
海からの風に吹かれて
朝
窓の外、白い航跡を引いて港を出て行く漁船。
寝坊したのか坂道を走る主婦の後ろ姿。
交番の前でホイッスルをくわえ佇む若い警察官。
幼稚園のお迎えバスを待つ親子。
シャベルカーで土手を切り開く作業員。
信号待ちで化粧をチェックする女性ドラーバー。
レーシングカーのようなスピードで対向車線を上ってくるYナンバーの車。
みんな今この瞬間、何を考えているんだろうか。お昼は何を食べるんだろうか。今日何回笑うんだろうか。
そんなこを考えていると、久しぶりに同じ時間帯になったバンデン・プラに追い越された。
まだ今日は始まったばかりだ。
先日、大病を患い手術をした知人の醤(じゃん)キエロ氏を見舞った。
術後10日目のベッドでは、病衣でなく軽装姿の彼がタブレットでインターネットラジオを聴きながら漫画や雑誌を読んでいた。
口ひげを生やし、首にてぬぐい、足元は雪駄という彼流のくつろぎウエアが、点滴や流動食を終え、ようやく自由に動きまわることができる喜びを表現しているように見えた。
若い時となんら変わらぬ調子で、好きな映画や漫画、音楽について談義しながら、酒を交わしてきた仲だけに「手術入院」と言う言葉を聞いた時、不意打ちを食らったような気分だった。
そんな彼が切開した腹部を見せようとTシャツを捲る。ヘソを中心に縦に割ったような痛々しい傷跡が露わになった。よく見てみると、以前のぽってり腹が凹んでいるのに気づいた。
「腹凹んだね?」
「手術で5日間断食したおかげです。内臓脂肪って何も食わなきゃすぐなくなるんですね。この体型を維持しなきゃ」
互いに不摂生や無茶が利かぬ年代にさしかかった今、毎日自転車を漕いでも落ちなかった脂肪が取れたことは驚きだ。
「これからは酒も食事も量より質で楽しまなきゃですね」と美食家らしい笑みを浮かべた。
そうか、量より質ね。人間は本来、年を積みながら身体や思考を省エネやエコモードにシフトしていく機能を備えているのかもしれない。これからの我らの余生を象徴するかのようなスリムな腹に思えた。
病気になった本人にしか分からない不安や苦悩。病院にいると彼と同じようにように大勢の人々が現実と向かい合い、それを受け入れ、乗り越えながら人生を力強く歩んでいることに改めて気づかされる。
病気を通して彼が開いた新境地は、これからの人生をより豊かにしていくことだろう。
手術という大仕事、本当にご苦労様でした。そして本日退院ですね。おめでとうございます。これからも互いに楽しくて、心地のよい時間を大切に刻みましょう!
まち
HAIKI WAVE
瀬戸へ
田植え前
子供の頃、親にチャップリンの「独裁者」や「キッド」のリバイバル上映を観に連れて行ってもらった記憶がある。モノクロフイルムの中で声を発せず、人々を笑わせるチャップリンの演技に子供ながら「すごい人がいるんだな…」と感心した。
その後、CGをはじめ、今日の3Dへと映画はどんどん進化した。私たち同様どういう時代を生きた人も、過ぎ去った歴史の中では人類の最先端に暮らしていた訳だ。主人公ジョージもまさしくその一人。しかし、トーキーという新たなイノベーションの波の中、時代に取り残されていく。
ジョージの焦りと葛藤は、現代人にも通じる課題だと思う。PCやスマホを仕事効率化や人生を楽しくする道具としていかに使いこなすか? そんなの関係ねぇ、俺は今まで通りオレ流で行くぜ! 最先端を追わないこともジョージと同じ自由な選択肢だ。
でもどの時代を生きた人々もきっと新しい物好きだったに違いない。映画の中でもトーキーブームでペピーの人気はうなぎ上り、たちまち時の人になってしまう。
果たして「老兵は去るべし」なのか? そうではない。物語に描かれたペピーのジョージへの想いこそこの映画のテーマ。ジョージが見る正夢の素晴らしい音響効果など斬新な手法は、映像・音・物語など複数の芸術要素が合体して誕生した総合芸術としての映画を踏襲し、発展させた3D作品に負けない21世紀の映画だと思った。
まさに温故知新。それを象徴するラストシーンのタップダンスも爽やか。映画の原点ここにあり! ミシェル監督すごい! と楽しい気分で映画館を後にした。