「日宇町で黒澤明の夢と逢う」
先月初旬、日宇町の高台にある棚田に素晴らしい梅畑があると聞き、カメラを持って出かけました。所有者のMさんが20年前から丹誠を込めて育ててきたシダレウメの数は400本。奥さんが植えたという菜の花の黄色いラインがこれまた絶妙なコントラストをかもし出し、のどかな田園は隠れお花見スポットとして多くの人が訪れ、山間を彩る春景色を堪能していました。
そこで出会ったのが大分県から足を運んだというダンディなおじさまH氏。朝8時過ぎから畑に三脚を立てて何時間も粘ってシャッターを切っていた写真愛好家のH氏は、かつて東宝撮影所の美術スタッフとして勤務してたいた人物でした。
なんと「用心棒」や「天国と地獄」など黒澤組の仕事にも多数携わていて、日本映画の生き字引とも言えるリアルな話を聞くことができました。
僕がこの棚田を上りながら、偶然にも黒澤監督の「夢」に登場する「桃畑」のロケーションを思い起こしていた、と切り出すと少年のように瞳を輝かせ「あれは甲府で撮ったんですよ。ちょうどこんな棚田に木々と役者を立たせてね。大変でした」「同じ『夢』で、狐の嫁入りのシーンでパッとこっちを振り向くカットもすごいでしょう」「黒澤さんの絵コンテはほんと素晴らしかった」などなど懐かしそうに映画づくりの楽しさを語ってくれました。
ちなみにH氏がこの日写真撮影に費やした時間は約8時間。「黒澤組に比べるとまだ短いのでは?」と問うと「そうですね。撮影3日間くらい待たさられるのは普通でしたもんね」と爽やかな笑みで浮かべました。
美しいシダレウメの中で蘇った黒澤明監督の映画道。美しい梅畑を舞台に映画「夢」の一話「こんな夢をみた」みたいなひとときでした。
それにしても黒澤監督が同作で描いた「赤富士」という物語はすごい。今起きている原発問題を見事に予知した鋭い作品と言えます。政治家と電力会社の偉い方はぜひ一度ご覧下さい。