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「佐世保弁物語3」


【ほかんと】
佐保美「すーすーすーはどがん?」佐一郎「う〜ん、なんかさむかごたっね。ほかんと、なんかなか」「そうね、なかなかなかは?」。中央公園の噴水広場でベンチに腰かけ、ワインバーの屋号を思案中の二人。親しみのある佐世保弁でネーミングできないかという、佐一郎の思いで、佐保美が一生懸命知恵をしぼっていた。「佐保美さん、今度三川内につき合ってくれん。器ば三川内焼で揃えたかとさ」「よかよ、いこうで」。※「ほかの」の意味

【ほんなこと】
「あ〜ほんなこと、よかお湯やね」。湯船の中で笑顔をこぼす母ひろ子と久しぶりに、世知原町「山暖簾」の温泉を楽しむ佐保美。「今度、佐一郎さんと三川内にいくと。お店の皿や器ばみつけに」「そうね。ほんなこと、よか人と知りおうたね。もうプロポーズはさしたとね」「そがんと、まだにきまっとたい、お母さんなんばいいよっと」。ちょっと照れくさそうに、国見山の景色に目を移す佐保美だった。※「本当に」の意味の九州弁。「ほんなこて」と言う地区もある。

【めんまわる】
「佐一郎さんもう指輪買ったとかな? まだアクションなしですか?」「うん、まだなんもいわっさん。このキャンディばもう一個買おうっと」。佐保美と恵は玉屋1階の「ラウンド菓子」売場で量り売りのお菓子をカゴに入れながら会話していた。「今ね、店の名前ば考えよっとさ。恵なんかよかネーミング思いつかん? 佐世保弁で」「えっ、佐世保弁で名前つけるんですか?」「そう、たぶん方言ばローマ字で表記すっちゃん。あっ!! 」。佐保美が突然、恵の肩に手をかけ寄り添うようにふらついた。「佐保美さんどうした!?」「ゴメンゴメン。お菓子ばっかい見よったら、めんまわっただけ」……。※「目がまわる」のハイパーなまり。

【ゆうけん】
三川内で皿や器を買いそろえた佐一郎と佐保美は「させぼ四季彩館」に立ち寄って物産品を見て回った。「佐世保名物のなんでんあっとねぇ。あ、佐一郎さんさっき店の名前のひらめいたとばってん」「なん?」「じゃ、ゆうけん(言うから)ね。『コンケン』ってどがん?」「……こんけん?」「うん、こんけん。『出てこんけん』とかゆうたい。店によけいお客さんのこらすごと、縁起もようなか?」。佐一郎がレジに走り、「すいません。なんか書くもんなかですか」とメモ用紙とペンを借りている。紙の上に「K」の文字をすべらせ「Konken」と綴った。
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【ゆうけん】
「あっ!! よかねぇ。かっこよかやん。こいにしゅうか」「よかった、コンケンコンケン!」と喜ぶ佐保美の無邪気な姿を見ながら、佐一郎は胸の中で「じゃ、おいもゆうけん(言うから)。佐保美ちゃんも、おいについてコンケン!」と笑顔でテレパシーを送った。が、佐保美は「あ! まぜん婆の売ってあっ、買うとこお〜っ」と陳列コーナーに手をのばした。※「言うから」の意味。

【よか】
「よか眺めやろ」。ここはハウステンボスジェイアール全日空ホテル12階。佐一郎が鉄板焼「大村湾」でディナーをご馳走してくれた。シェフの素晴らしいナイフさばきに見とれているうちに、目の前で美味しく焼き上がっていく牛肉や魚介類の数々。佐保美は「おいし〜い」を連発して喜んだ。ご馳走をたっぷり楽しんだ後はテーブル席に移動して気分を変えてデザートタイム。スイーツを食べていると、「こちらは女性のお客様だけにご用意ささせていただいております」とおしゃれなフタ付の器が運ばれた。「うわぁラッキーなんやろ?」。※「良い」の意味

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テーブルに運ばれたデザートのフタをそっと持ち上げた佐保美の目がまん丸になった。「なんこい!!」皿の上にはジュエリーケースがぽつんと置かれている。驚く佐保美に佐一郎が、「知り合いのシェフに頼んで、おいなりのちょっとした演出たい。開けてみて」。「本当に買うたと!! 恵からほら例の事件。事情ば聞いたっちゃん、店の準備でいろいろお金のいる時にプレゼントはよかとに…」。佐一郎はコップの水を少し喉に流し、軽く深呼吸して「佐保美ちゃん、プレゼントじゃなか……プ、プ、プローポーズばい。はよ開けて指につけてくれん」。

きたぁ〜、マジ……こいがプロポーズの瞬間?……佐保美は全身が高揚していく感覚を必死におさえながら指輪ケースのフタを開ける。ぽん、ぽんと遠くから聞こえてくる音。ハウステンボス場内の花火が始り、周りのお客さんたちが「わ〜きれい」と窓の向こうに咲く大輪に目を奪われている。


「うわ、なんかうそんごたっ」と花火ではなく指輪を手に取りじっと見つめる佐保美。そっとリングを指に通して、佐一郎に向け手をかざしす。「よう似合う、よかった。……ね、佐保美ちゃん。おいの店ば一緒に手伝ってくれん?」「エッ!! お店ば」「すぐじゃなくてよかけん。考えてみてくれん。ずっと二人でおりたかとさ……け、け、っこんしゅう」。ぽん、ぽん。花火の音。あまりに突然で、まばたきのような「結婚」という二文字。佐保美はなんだか心だけ宙に浮いているような感覚のまま「う、うちも……すいとっよ」と答えるのが精一杯だった。

※続きはまた、そのうちに。

ライフさせぼ『佐世保弁辞典〜らいふさせぼ編』より。