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「素晴らしき美術監督」

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種田陽平という名前をまったく知らず、岩井俊二という名前に牽引されて結果的に種田陽平という名前を知ることになった記念すべき作品が96年に公開された『スワロウテイル』だった。
 
その後『キル・ビル』などで活躍しながら脚光を浴び、今や日本映画界を代表する美術監督の1人となった。そんな種田さんが03年にわがまち佐世保市に滞在。赤レンガの立神音楽堂の入口にエキセントリックな鳥居のセットを組んだり、音楽堂の中にライブバー「ブラックローズ」や、スポーツランド跡地にフェスティバル会場を創り出し、見慣れた現実の中に虚構世界を創造していく映画づくりの面白さを体現させてくれた。

新進気鋭の李相日監督が佐世保ロケでエネルギッシュかつポップな青春像を焼きつけた『69sixty nine』の美術を手がけたのも種田さんだ。氏は佐世保の大ファンで映画公開記念イベント『ブラボーSASEBOフェスティバル』のプロデュースも自ら担当。その時に販売された種田さんデザインのTシャツ(黄色)を私は6年経った今も愛用している。

ロケ地マップの制作にも携わった私は、種田さんをインタビューする機会にも巡り会えた。「佐世保は土着的な村意識が薄く、何でも受け入れるターミナル的な自由な雰囲気を持っている街に感じる」という感想が記憶に残っている。その後、ハウステンボスの『夏の祝祭劇場灯りのまつりファントマティーコ!』の美術監督を務められた時も東洋のランタンとヨーロッパの街が融合したような無国籍な現場で創作の話を聞くことができた。

三谷幸喜作品でも独特の質感を漂わせる見事な美術で作品の世界観を広げてきた種田さん。撮影や照明、音楽と同じく美術という仕事が映画という総合芸術を支えるうえでいかに大切な要素なのかを改めて気づかせてくれた人物だ。ちなみに最近観た作品では根岸吉太經篤弔痢悒凜オンの妻〜桜桃とタンポポ〜』の種田ワールドが圧巻だった。
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この夏、ジブリも種田さんの才能をプッシュしたコラボ企画『借りぐらしのアリエティ×種田陽平展』が東京都現代美術館で開催されるなど、日本映画界の貴重な存在でになっていることが伺える。

そして、いよいよ待望の李監督最新作『悪人』の公開が迫ってきた。『69sixty nine』『フラガール』に続き李作品に種田さんが参加。吉田修一の原作をもとに福岡、佐賀、長崎の3都市を舞台にロケを敢行した話題作。李監督の手腕はもちろん久石譲の音楽、現場のロケーションと空気をいかした種田さんの美術世界に期待がふくらむ。個人的には平戸ロケの延長で佐世保市街でもワンシーンくらい撮って欲しかったものだが、『69』の作品価値を考えれば、本作に佐世保の空気感は不要なのかもしれない。