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2010年09月22日

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「悪人」

2回観た。震えた。涙出た。4年待った甲斐あり。
劇場には女性客多し。シクシクとすすり泣きが聞こえてきた。 


スカイラインが三瀬峠を越え福岡市街に向かう冒頭から、最近ごぶさたしていた映画的緊張感に引きづり込まれる。解体作業現場に向かうワゴン車のフロントガラスに広がる道筋が、事件現場に向かう警察車輌から見た峠の光景に移り代わったところから、その緊張感はさらに深まりを増す。


轟音を発して廃屋を取り壊す作業現場のシャベル……殺人という非日常的な破壊を象徴するかのよう。のどかな漁村……房枝が台所でグサッと包丁を入れ、さばかれていくまな板の上の魚にも、祐一の携帯動画に保存された下着姿の佳乃にも生々しい「生命」を感じる。


料理をちゃぶ台に運びながら「今日警察のこらしたとよ…」と祐一に語りかける房枝。黙々と口に箸を運ぶ祖母と孫の夕飯。ご飯を噛みながら房江が細々と論じる人の善悪……静かなシーンだが、現実を良識で整理していく人間の情が逆に痛々しく心に突き刺ささり、まるで最後の晩餐のよう。/panfu2JPG.JPG


光代のメール着信から物語が後半に向かって加速し始める。メールでの無機質な出会いと実際に言葉を交わして進展する有機的な性交。ベッドシーンも最近の邦画では珍しく必然性を持ってきちんと描写されている。佐賀駅での別れ際、バックミラーに映る光代の後ろ姿が印象的。


呼子名物イカの造りを目の前に殺人を告白する祐一。イカの目玉に映り込む回想シーンにより事件の真相が明らかになっていく。物語前半に蓄積された「負」を全部受け入れ背負ってくれるような光代の力強い存在感。救世主が現れたように、観る側は、いつのまにか光代の言動に救いと希望を覚え始める。


祐一の少年時代と現在の、行き場のない微かな希望を象徴するかような灯台。「あんたには大切な人はおるね」という佳男の台詞を皮切りに始まるクライマックスの映画的ダイナミズムは圧巻だ。


オープニングからエンディングまで弛むことない映画的緊張感は『張り込み』『砂の器』『青春の殺人者』『復讐するは我にあり』『事件』などで味わった感覚にもどこか似ていて、近年慣らされてきたテレビドラマ映画の空気とは明らかに異なっていた。


いい原作がいい映画になる条件とは一体何だろう?


黒澤明、市川昆、今村昌平、大島渚、野村芳太郎、長谷川和彦、伊丹十三……銀幕に「今」を描き続けた昭和の名匠たちが放っていた映画監督の「作家性」を久しぶり味合わせてくれた素晴らしい日本映画だ。


今の社会では、祐一と光代より増尾や佳乃の方が一般的で分かりやすい若者像かもしれない。経済や文化をメディアを動かしているのも増尾や佳乃が持つ「軽さ」がエネルギーになっていると思う。だからこそせめて映画の世界くらいは「軽さ」ばかり追わず、社会のすそ野で生きる等身大の人間をきちんと描く「重み」も大切にして欲しい。そういう意味でも「李監督に座布団5枚!!」って気分!


2010年09月15日

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「ピアノにフィナンシェ・緑の和音♪」


全国津々浦々、いろんな菓子折がござんすが、グランドピアノ型パッケージという珍しい菓子を初めて拝見したでやんす。うんとこ、どっこい! 屋根(蓋)を開け突き上げ棒を装着。お〜っ、ドレスアップした、のだめちゃんが出てきそうなゴージャスな雰囲気じゃござんせんか。midori.JPG

当たり前ですが、フレーム内部には弦は張ってありません。その代わり、緑のお菓子がお行儀よく並んでおります。一口サイズが2片の透明小袋が6袋。一緒に添えられた栞に『緑の和音』と商品名が記され「こぼれてくる 緑の和音 渇いた心を 潤します」なるピアノの旋律のごときお上品なコピーが綴られているでがんす。

パッケージ側板には銀文字で「アルカスSASEBO」の文字。これは佐世保市の公共ホール名でありまして、来春でちょうど開館10周年。現在その記念行事真っ盛りということで、オリジナル性の高い記念商品を作ろうじゃありませんか!と考案されたフィナンシェ『緑の和音』なのででやんす。

見事な曲線を再現した紙パッケージに加え、中身のフィナンシェにも佐世保のこだわりが詰まっておりまして、材料に使われておりまするは名産品世知原茶。なんと、石臼で引いたお茶とおからを絡めてフィナンシェ特有の食感を出したという斬新かつ大胆な一品でごじゃりまする。

焼き菓子づくりのお約束といえるバター、アーモンドなど乳製品を一切使用しないというナチュラル&ヘルシーなお菓子に仕上げたのは、草加せんぺいの老舗として歴史を刻む「草加家」さん。お口の中に優しい佐世保風味が広がる、緑の和音なのでござんす。

但し限定品ということで10月18日(土)から21日(祝)まで同ホールで開催される『ミュージックフェスティバル』の会場のみでの販売。お値段は1300円で100個限定のプレミアム商品でやんす。アルカスさ〜ん、草加屋さ〜ん、これって結婚の引き菓子なんかにもウケそうじゃござんせんか?  (長月)

2010年09月01日

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「素晴らしき美術監督」

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種田陽平という名前をまったく知らず、岩井俊二という名前に牽引されて結果的に種田陽平という名前を知ることになった記念すべき作品が96年に公開された『スワロウテイル』だった。
 
その後『キル・ビル』などで活躍しながら脚光を浴び、今や日本映画界を代表する美術監督の1人となった。そんな種田さんが03年にわがまち佐世保市に滞在。赤レンガの立神音楽堂の入口にエキセントリックな鳥居のセットを組んだり、音楽堂の中にライブバー「ブラックローズ」や、スポーツランド跡地にフェスティバル会場を創り出し、見慣れた現実の中に虚構世界を創造していく映画づくりの面白さを体現させてくれた。

新進気鋭の李相日監督が佐世保ロケでエネルギッシュかつポップな青春像を焼きつけた『69sixty nine』の美術を手がけたのも種田さんだ。氏は佐世保の大ファンで映画公開記念イベント『ブラボーSASEBOフェスティバル』のプロデュースも自ら担当。その時に販売された種田さんデザインのTシャツ(黄色)を私は6年経った今も愛用している。

ロケ地マップの制作にも携わった私は、種田さんをインタビューする機会にも巡り会えた。「佐世保は土着的な村意識が薄く、何でも受け入れるターミナル的な自由な雰囲気を持っている街に感じる」という感想が記憶に残っている。その後、ハウステンボスの『夏の祝祭劇場灯りのまつりファントマティーコ!』の美術監督を務められた時も東洋のランタンとヨーロッパの街が融合したような無国籍な現場で創作の話を聞くことができた。

三谷幸喜作品でも独特の質感を漂わせる見事な美術で作品の世界観を広げてきた種田さん。撮影や照明、音楽と同じく美術という仕事が映画という総合芸術を支えるうえでいかに大切な要素なのかを改めて気づかせてくれた人物だ。ちなみに最近観た作品では根岸吉太經篤弔痢悒凜オンの妻〜桜桃とタンポポ〜』の種田ワールドが圧巻だった。
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この夏、ジブリも種田さんの才能をプッシュしたコラボ企画『借りぐらしのアリエティ×種田陽平展』が東京都現代美術館で開催されるなど、日本映画界の貴重な存在でになっていることが伺える。

そして、いよいよ待望の李監督最新作『悪人』の公開が迫ってきた。『69sixty nine』『フラガール』に続き李作品に種田さんが参加。吉田修一の原作をもとに福岡、佐賀、長崎の3都市を舞台にロケを敢行した話題作。李監督の手腕はもちろん久石譲の音楽、現場のロケーションと空気をいかした種田さんの美術世界に期待がふくらむ。個人的には平戸ロケの延長で佐世保市街でもワンシーンくらい撮って欲しかったものだが、『69』の作品価値を考えれば、本作に佐世保の空気感は不要なのかもしれない。