「青切符は曲げてよい」
麦酒買ったレジ袋、原付二輪にぶら下げて。湯豆腐、レバニラ、うれしいな。ぶぶんぶん〜と帰りまひょ。うぅ〜ぷぅ、の一口目、飽きることなぞござんせん。ぶぶんぶ〜んと帰りまひょ。湯豆腐、レバニラ、うれしいな。
ぶぶん〜ぶーん、ぶぶんぶ〜ん。まもなくお家じゃ、ぶぶ〜んぶ〜ん。うぅ〜ぷぅ、至福の一口目、飽きることなぞござんせん。
なれた四辻、左に折れて、ぶぶ〜ぶ〜ん。ぶぶ〜ん、ぶーん。突然ですが、背中の闇から人の声。「まべのほにゃむにゃ、トマトなさい」。聞きとりにくいが、拡声器から野太い男声。びくっとバックミラー覗いてみると、あらま、あらま、まんまみ〜あ。あらま、あらま、まんまみ〜あ。
後方車輌のヘッドライトすら映り込んでいなかった背中の闇が、突然ですが、火事場のような赤景色。一体何があったのか。くるりと首を左45回転。するとそこにパトラッシュ…。いやいや、ぼかぁ、ネロじゃありましぇ〜ん。もう一度44文字前に戻って(句読点ははぶく)実況やりなおし。テイクツー。
くるりと首を左45回転。するとそこにパトランプ…。夜の町、赤色くるくる、赤色くるくる、照明が入った舞台のよう。あらま、あらま、まんまみ〜あ。わたくし何かしたかしら。周りにほかの車輌は見当たらん。あらま、あらま、まんまみ〜あ。わたくし何をしたかしら。
最前わたしが耳にした「まべの、ほにゃむにゃ、トマトなさい」という音声は、もしや「前の、バイク、止まりなさい」ではなかったか。あらま、あらま、まんまみ〜あ。わたくし何をしたかしら。
止まったパトカー、ドア開き、初老の警官満面笑。「こんばんは」、わたくしも兜をとって「こんばんは」。感動のご対面。「止まらっさんやったですね」。通訳「止まりませんでしたね」。「あそこは一時停止って知っとらすですよね」。通訳「あそこは一時停止だと知っていますよね」
なるほ、なるほ、なれた辻道、止まらぬわたくし。一時停止の反則おかす。
ここからは、皆様ご存じ、免許証を提示。VIP席に招かれ、後部シート独り占め。「減速はさしたとばってん、止まらっさんやったですもんね」「一時停止は、足をつくくらいに止まってください」。あらま、湯豆腐、ニラレバにうつつをぬかし、わたくしぼ〜っとしとったか。無意識運転。習慣運転。これも天運。天命。天罰。足裏大地につかぬまま、四辻を左折。闇から見られておった。
職場や電話番号、書類作成に必要な事項。室内灯に照らされて反則書類できていく。水色の交通反則告知書・免許証保管証、通称青切符即日発行。
反則日時、3月6日、午後10時3分頃、反則場所、佐世保市天神3丁目11番。反則事項・罰条、指定場所一時停止。原付車一種原。自家用。男。反則金相当額5,000円。2点減点なり。
「はい、できました。こっちの納付書は曲げんでくださいね、機械に通らんやったりすっですけんね」「はい、こっちは曲げてもよかですけん」と銀行員みたいに親切丁寧警察官。
定額給付金支給が決まったばかりの年度末。わたくし一時停止の反則おかす。
言われた通り交通反則告知書曲げて、納付書・領収証しゃきっ。 (弥生)