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「たけやと表現」


僕が育った天神町に懐かしい駄菓子屋がある。幼い頃に毎日のように通い「ババコヤ」の愛称で親しんだ20世紀少年少女の社交場だ。今も建物はそのまま昔の面影を静かに残し煙草や学校指定の体操服などを取り扱っているようだが、さすがに駄菓子屋としての賑わいは消えたようだ。その脇から細い路地を下っていくと左手の森の中に馬頭神社、さらに下ると住宅地が広がる。
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普通の民家が点々と佇む閑静な住宅の中に旨い和食を楽しませてくれる店がある。ということをつい最近になってイラストレーターのアジサカコウジ氏より聞いた。何でも遠く県外からも噂を聞きつけお客さんがやって来るという隠れた名所だという。

ホームグラウンドであるわが町内にそんな名所があったとは……。しかし、ご近所過ぎてなかなか一見客として暖簾を潜れずにいた。そこで、これまたご近所であるサックス奏者の浦崎健治さん、マリンバ奏者の山ヶ城陽子さんにその話をしたところ、「そうそう、とってもいい店だって知人に聞いたんです」という返事が返ってきた。「今度一緒に行ってみましょうよ」
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が、ついにこのゴールデンウィークの大安の日に実現した。浦崎さん山ヶ城さんのセッティング〜!!で、ハウリン伊達丸と4人揃って銘酒と創作料理の店「たけや」デビューを果たしたのだ。
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清楚でこじんまりした落ち着きある空間にカウンター席が広がる。僕らは奥座敷で会食の席を設けた。民家を利用した店舗ということで、離れもあるそうだ。なんとも風情がありそうで気になる。

しばらく4人でお品書きを見つめていたのだが、お刺身、揚げ物、焼き物……あれこれと食してみたくて決めあぐんでいると、割烹着姿の気さくな女将が登場。まずはエビスビールで乾杯することに。旬のお刺身盛りを頼み、みんなでいろんな物を食べられる献立を見繕ってもらうことにした。

お〜う!! 透き通るシルクに身を包んだような美しき生春巻きが現れた。続いて串焼きの盛り合わせ、鶏の梅肉がこれまた格別な風味を漂わせ酒が進む。レンコン料理もいけます。いけます。来ました。来ました。お刺身も気品豊かな盛りつけで見て食べて二度美味しいじゃありませぬか。
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「こがん旨か店の、こがん近くにあったなんて…おい日本酒にしゅうかね」と浦崎さんもひどくご機嫌だ。しばらくすると一口サイズのチキン南蛮がテーブルの上に。お〜う、上品な野菜が乗っかって一個ずつ串に刺さってる。「山ヶ城さん!!これってマリンバのマレット(ばち)みたいで可愛いでありませんか!」などと冗談を交わしながらみんなでお口へ運び……「旨い」「旨い」をモグモグと連発。「チキン南蛮って言う常識の変わるね」赤ら顔のロックンローラー、伊達丸も絶品コメントを漏らした。

「そろそろ焼酎にしましょうか」と再びお品書きチェック。えっ!? ……1㏄……3円……!? ……1㏄……4円……!? 「ちょっとみな様方、飲み物を1㏄単位で意識して飲んだことありますか?」「……」「…スポイトは持ち歩かんね」なんと焼酎各種量り売りというユニークなシステムなのであります。とりあえず芋で、ということで「山猫」という焼酎を運んでいただいた。この時点でボトルは満杯状態。お会計の際に目方を量って、減っている㏄×4円で計算するそう。「だから、お好きなものをいろいろ飲んでいただいて結構なんですよ」と女将が上品な笑みを浮かべながら教えて下さった。

「またまた、よかですよね〜」と浦崎さん。「焼酎でアゴば食べたかですね」
「頼みましょう。頼みましょう」この夜、膳の上に並んだ料理はどれも、そのネーミングの想像を超えて個性的。素材をいかしながら、ちょっとサプライズな調理法や盛りつけで胸をときめかせ、舌鼓を楽しませてくれた。
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それぞれ表現することにたずさわっている4人の宴席。「演奏家でなくて表現者になりたいなぁ」みたいな話題に花を咲かせ酒を酌み交わした。目の前に並んだ満足料理もまさしく食という調理人の表現だった。人を感動させる表現力は奥深い、だから人生は面白い。「たけや」は僕ら酔っぱらい4人に笑顔をと明日のエキスを与えくれた。たけやだよりを読んだイメージと、口コミ噂通りの名所だった。(五月)