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「古武術に感じたこと」


 椅子から立ち上がるとき「どっこしょ!」と無意識に声を出す。なぜだろう?
その理由が昨日少し分かった。どうも部分的に力を集中し過ぎて無理して立ち上がろうとしているようだ。「起き上がる」「座る」「坂道を上る」「荷物を持つ」「身をかわす」……わたしたちの日常の動作には、本来疲れにくく効率性のよい身体能力が備わっていたそうだ。にもかかわらず、現代人は機械化などで体を動かすことが下手になり、優れた能力を失ってしまっているという。

 そういう優れた身体感覚を取り戻そうと研究、提唱を続けている古武術研究家の甲野善紀さんが、佐世保市武道館を訪れ、市民に講習会を開いた。音楽イベント情報サイト「させぼらへん」を運営している平田雄志さんが世話人となって、佐世保に招き今回で10回目の講習会だ。サッカーやバスケット、柔道などスポーツに親しむ人、介護関係の仕事に携わる人、会社員、主婦など受講生の顔ぶれは実にさまざまだ。
kobujixyuJPG.JPG 古武術を探求しながら、かつての日本人の優れた体の使い方を研究して生み出した独自の技法と論理は、各界から注目されるようになる。桑田投手をはじめ、数多くのスポーツ選手、演奏家、舞踏家など幅広いジャンルでその身体技法をヒントとして活用する人が増えた。近年は、介護や医療現場、人間工学、経営の分野からも相談が増え、NHK教育テレビ『暮らしのなかの古武術活用法』などメデイアを通して、一般市民にも広く知られるようになった人物だ。

 この日の講習会では、椅子に座った人を立たせる、ベッドから落ちた人を戻す、腕の力を使わず引っ張り上げる、倒れたときにケガをしない受け身など、いろんな技法を紹介。受講者から「お〜う」と驚きの声が耐えなかった。見学しながら、全体的にいかに余分な力を分散させ全身運動に変えるかという技法といった印象を受けた。

 平田さんの計らいにより、休憩時間に甲野さんと少しだけ話をすることができた。「科学にも限界があることを感じて欲しい。科学は一つの方法にすぎません。人間の複雑な動作もあまりに科学的に考えることで逆に体を悪くしているケースもたくさんあります」写真やテレビで拝見する道着姿に、つい武術家、武闘家というイメージを持ってしまうが、甲野さんは闘いや護身のための武術を伝授している師範ではないのだ。スポーツ選手にも負けない自然にマッチした基本動作を講習や多数の著書で伝えている研究家なのである。「時代が複雑になればなるほど、すべてマニュアル化されていくことに危機を感じます。自分の頭で考えることを忘れてはいけない」という言葉が心に残った。

 組織や企業を一つの身体と考えると、全身のバランスが崩れているような出来事が多い。トップだけが力んでも平社員だけが力んでも一部に負荷がかかるだけで、優れた身体能力は発揮できないのかもしれない。甲野さんが目指す古武術とは「武術」ではなく人生を豊かにする「学問」なのかもしれない。(神無月)