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「カメの手鉄砲とクロ茶漬け」

 クロの女神こと、看板娘のサトちゃんがいる酒屋で再びクロのお造りを囲んで宴を開いた。

 今回のメンバーは、脱サラしてフリーランス人間としてご商売を再始動されるH・伊達丸と我らが兄貴、ドラマーのターボちゃんという、またまた男三人衆(前回はじゃんキエロとイトさんだった)。

 サトちゃんが、まず祝卓に運んでくれたこの日の突き出しは、ミナ貝とカメの手の塩茹でという酒の席に最高の海の幸。
 
「お〜う。旨そ〜う」と生麦酒で乾杯。爪楊枝で貝の身を、ちよこまかちょこまかほじり、珍味、カメの手の固い部分をねじ曲げ身を取り出す。指先に素晴らしき磯の香りを感じながら、蟹パーティにも似た単純食作業を繰り返し、黙々と美味を堪能。

 すると、伊達丸が身を剥いていたカメの手から、突然シュシュと液体が水鉄砲のように弧を描き、ターボちゃんの目もとにヒット。拙者のカメの手からも汁鉄砲が吹き出し、己の顔面に命中した。
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「わちゃぁ〜!!」「お〜っ、ほほほ〜。おい1伊達丸なんばすっとやぁ〜目に入ったやっか〜」と、大の男が水遊びしている餓鬼のようなはしゃぎ声を発して騒いでおると、「あ〜!! 下に向けて剥かないとダメですよ〜」とカウンターの中からサトちゃんが飛び出してきて手ほどき。拙者のカメの手を慣れた手つきで、ひょいひょいと一皿全部剥き身にしてくれた。

「お〜っ凄い。分かりましたあ」とオヤジ三人サトちやんの早業にうっとり。「クロはもうすぐですからねぇ」という言葉を受け、保母さんにうながされた園児のようにコックリと頷き、積もる話しを交わしながら大人しく酒と肴を楽しんだ。

 今宵も大将が腕を振るったクロが完成。立派なお造りが卓に運ばれた。
 
拙者は瓶麦酒、伊達丸とターボちゃんは六十余州の燗付けで楽しんだ。


 クロの美味なる切り身が残り少なくなり、拙者が箸を出すと、ターボちゃんが慌てて「ダメダメダメ」とイエローカードな声を発した。

「身ば残しといて、茶漬けば作ってもらうとさ。こいがもうめちゃ旨かっちゃけん」と満面に笑みを浮かべながら語った。先人の知恵に逆らうべからず、拙者は素直に箸を引く。

 そうして宴の締めを、クロ鯛の茶漬けと味噌汁が華々しく飾ることになった。

 きざみ海苔の下に隠れたプリンプリンの鯛の身。醤油味で引き締めた茶漬けの味わいは、ターボちやんの言葉と通りに絶品でござった。      (文月)