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本当にあったトホホな話3

第3話    〈赤いみどり事件〉 


 もうずいぶん昔の出来事でございます。高校時代の級友の結婚式に招かれ福岡を訪れました。久しぶりに再会した旧友たちと酒を酌み交わし新郎新婦を祝福後、九州各地に散らばった友等とホテルのロビーで再会を誓い、それぞれ帰路へ向かいました。
 
 わたくしはJR「みどり」で佐世保へ。ちょうど諫早から訪れていたS坊と同じ道筋。列車の道中、「みどり」と「かもめ」の車両が切り離される肥前山口まで、二次会気分で麦酒でも飲みながら語りましょうとタクシーで博多駅へ走りました。
 
 キオスクで缶麦酒やちくわなどを買い込み乗車。引き出物袋を床に据え、上着を脱ぎ、ネクタイを緩め、車窓縁に缶麦酒とつまみを並べ準備万端。発車までまだしばらく時間がありまする。私は無性に汁物を食したくなり、S坊に「うどんば食わん?」と問いかけました。

 「じゃ、おいが買ってくっけん!」と、わたくしはホームに走り、売店にてうどんを2杯注文いたしました。「はい!おまち」と売店のおばちゃんの威勢のよい声と同時にまず1杯目のうどんを受け取りました。続いて2杯目を手に取ろうとした瞬間……。

 あぁ〜なんと恐ろしいことでございましょう。湯気をたてる白いポリ容器を両手に持ち、振り返ると「みどり」の乗降口が閉まり、ホームをゆるやかに滑り出した赤い「みどり」のボディ……。その切ないスローモーション映像のような光景は今もくっきりと、わたくしのデータファイルに収められております。

 ホームから消えた赤いみどり。わたくしの両手には、できたてのキツネうどん。なぜか分かりませんが、その時、わたくしは自分の置かれておる状況ではなく、カップ麺の赤いきつねと緑のたぬきのことを考えてしまいました。
 
 赤色の列車みどり号と、うどんのことで頭が錯乱してしまったのでしようか。赤いきつねと緑のたぬきが、どちらがうどんで、どちらがそばだったのか分からなくなって、一生懸命そのことを考えたのであります。syu-.jpg

 しばらくして、思考は冷静さを戻りました。まず売店のおばちゃんに列車乗り遅れたことを理由に、うどん一杯を返品(状況を察して快く返品を受けてくれた)。残りの一杯を立ち食いしてから駅員を捜しました。

 そうです。その時代にはまだ携帯電話というものは普及しておりませんでした。駅員に事情を告げ、次の便で後を追うことに。走り去ったみどりに無線で連絡をとってもらい、S坊にアホな連れの失態を告げてもらいました。

 その後、駅員を通じS坊に連絡がとれたという返答。わたくしが車内に残した引き出物や上着の類は、停車時間が最も長い肥前山口のホーム上の駅員詰め所みたいな場所に置いておくので、そこで素早く受け取ってくれということが駅員から伝えられました。

 まるで身代金やスパイ映画の引き渡しのようなスリリングな光景を思い浮かべながら、わたくし次のみどりに乗ってひとりぼっちで博多駅を後にしました。

 肥前山口で受け取ったわたくしの所持品。S坊が気をきかしてくれたのでしょうそこには博多駅で買った、缶麦酒とちくわも添えてありました。。その後、彼には詫びの電話はしたものの、それきっきり会う機会はないままでございます。

 S坊様、お元気ですか?あれから何年経ちますかね。本当にトホホなわたくしの愚行でお世話かけました。5,6年前に開かれた北高の同窓会に出席されるかも、と思いわたくしも初めて同窓会というものを体験しました。が残念ながらS坊は欠席されていました。幻の二次会、幻のうどん(わたくしは食いましたが…)。いつの日か実現させたいものです。
  (水無月)