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「すぼ」

 久しぶりに発泡酒の肴に「すぼ」を食べた。ストローを剥くのがいささか面倒臭いのだが、飲衛兵には、ちびりちびりやりながらの嬉しい儀式。たまらなく酒との相性がよろしい練り物の横綱なのである。
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 ストローで巻いた蒲鉾は一般的に「すぼ巻き」の名で親しまれ、佐世保では昔から「すぼ」という通称で呼ばれている。どうしてスボなのか? スボクな疑問を持ちながら、この蒲鉾を食べてる人も多いのではなかろうか?

 佐世保でこの蒲鉾がメジャーになったのは燃料の変化で量産が可能になった大正末期〜昭和初期にかけての頃のようだ。海軍で栄えた時代、この蒲鉾を行商人たちが売り歩いていた。当時の海軍橋(現・佐世保橋)付近に陣取れば、たちまち売り切れる人気商品だったという。

 その多くが平戸市から運ばれてくる「川内かまぼこ」だった。現在平戸の特産品として知られる「川内かまぼこ」が作られ始めたのは明治時代。漁獲量の多いエソという魚を使った加工業が漁師たちの副業として川内浦の漁村に広がった。

 当時、エソはその日のうちに開きにされ、大きなすり鉢を使い家族総出ですり身にされた。そのすり身に藁(ストロー)を巻く作業が「すぼ付」と呼ばれていたのだ(天然の藁を並べて、その上にすり身を置いて、手で転がす作業のこと)。

 藁は乾湿に適していて、蒸し篭に入れる際にスノコの役目も果たすそうだ。保存効果も抜群の優れものだったのだ。佐世保の「すぼ」のルーツと思われる平戸の「川内かまぼこ」の歴史や製造行程は平戸城内の民族資料室にも詳しく展示されている。

 
 ●すぼの語源は? 

 
 髪の毛をすくことを「梳き毛(スキケ)」と言う。古くは千歯、穂抜き機などの農機具を使い稲穂をすいて作る天然ストローで縄や草履、しめ縄などいろんな日用品を作っていた。かつて、すり身を巻くこのストローを「梳き穂(スキホ)」と呼んでいたとも聞く。

 また佐賀県では方言で藁の穂のことを「わらすぼ」と呼んでいる。ワラスボと言うと一般的に有明海に生息するムツゴロウなどの仲間みたいな魚(ウナギみたいに細長く顔がエイリアンみたいなハゼ科の硬骨魚)が有名だ。広辞苑で「わらすぼ」を引くと「藁素坊」という漢字で、この魚の解説が掲載されている。

「梳き穂(スキホ)」が訛って「スボ」になったという説もあるようだが、佐賀弁の「ワラスボ」が縮まり「すぼ」と呼ぶようになったと考えた方が自然なようだ。

 ちなみに、本場平戸では、エソが捕れない時期にはアゴ(トビウオ)、イワシ、アジも材料に使っていた。現在、市場に出回っている多くの「すぼ」もアジやイワシ、アゴなど近海で捕れる青魚が使われているものが目立つ。拙者はイワシとアジとアゴ、キビナが大好物なので、「すぼ」にも愛着が強い。
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 近場では、戸尾市場の本田蒲鉾店でも昔ながらの手づくりすぼがトンネルを利用した工場で作られている。こちらも本物の藁ストローが手に入りにくくなってからはナイロンのストローを使用(写真のようにストローで巻いたすり身を蒸す作業は昔と変わらない)。    (五月)