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「8020まで3本」

 
 6月4日は「虫歯予防デー」だ。この日を皮切りに10日まで「歯の衛生週間」が展開する。そんな矢先、拙者の口腔は人生最大の危機を迎えている。上アゴの側切歯と下アゴの大臼歯がグラグラと揺らぎながら、かろうじて歯茎に食い止められているという無惨な状態なのである。

 前歯にいたっては歯茎が黒ずみ、歯が下がってきておるのである。これぞ恐るべし歯槽のう漏の結末なのだ。思い起こせばあれは、7、8年前だったろうか。食堂でうどんの残り汁を啜っておると、歯茎にじわりじわりと染み込むような激痛が走ったのが始まりだった。その後、缶コーヒーや菓子類を口にしても同じような痛みに襲われることが増えた。

 こりゃ〜また虫歯だ、あ〜、バキュームやエアータービンの音って恐いんだよな〜!! などと鷹を括り、しばらくして歯科医を訪ねた。すると、「歯槽のう漏です。時間をかけてケアしていきましょう」と想定外の言葉が返ってきた。

 せっかくドクターから優しいアドバイスを受けたにも関わらず、その後、通院を怠けてとん挫。欲望のままに喫煙、飲酒の日々を積んでおったら、歯茎の痛みに加え、出血、そして周囲に口臭を指摘されるようになった。

 それでも変わらず欲望のままの毎日を繰り返していると、歯茎の痛みは感じなくなってしまた。「成人の約半分が歯周病!」という文句を聞いたり、コピーを見て「拙者だけではないのだぁ〜」と変な安心感まで出てくる始末。
 
 どうせ、口の中を清潔にして丁寧に時間をかけて一本一本ブラッシングするしか改善策はないんだぁ〜といい方に開き直る。ドラッグストアで歯周病予防歯磨きをはじめ、歯間はブラシ、歯茎磨き、歯垢を落とすと記されているブラシなんぞ、ケアグッズを揃えて、朝、昼、番と我流のデンタルケアを約3年余にわたり続けてきた。

 ところが、昨年、左上アゴの大臼歯、いわゆる奥歯がゆらゆら状態になって食事中に脱落。「あ!! 歯のとれた!」と間抜けな声を出し驚いていると、側にいた小学生の娘に「お父さんもまた新しか歯のはえてくると?」と興味津々な顔で尋ねられた。……だったらいいのにね。残念ながら永久歯は、うどんやラーメンの替え玉みたいに追加できないのである。

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ていたらくな生活の末に訪れた哀れなる結末。前歯がなくなるなんて、女性だったら絶対に許すことができないはずだ。もちろん、男だって恥ずかしさは変わらない。
 
 人と言葉を交わす時、無意識に口をすぼめ、やがて何もかもが消極的になっていくのだ。前歯をなくすとはそれほど致命的なことだ。
 
 しかも、拙者は日々不特定多数の人々と会ってお話をするのが生業である。「うっ!! こやつ前歯がないぜ!」「エッ!! どんだけぇ〜!」と人々は愛想笑いを作りながらも、きっと腹の中で驚愕するのである。
 
 え〜い、いっそのことジャック・スパロウみたいなイカした銀歯の義歯を埋め込んでもらおうか……。ファイブ! フォー! スリー! ツー! ワン! サンダーバードオープニングカウントみたいにやがて訪れるであろう歯抜け野郎な現実と向き合い、日常をやり過ごしておるのである。知性と良識に満ちた方々は信じられない怠惰だと、きっと呆れ果てられることだろう。

 確かに拙者は歯周病をなめていたと今、反省しておる。そこで、今後、歯槽のう漏を患う方に少しでも参考になればと思うことがある。拙者の場合、虫歯治療で差し歯やかぶせものでの処置をした歯がことごとくやられておる。改めて歯石や歯垢、雑菌の巣になるリスクが高い箇所であることを痛感した。
 
 また、拙者は激しい歯ぎしりマンでもある。寝ている間に歯や歯茎に過度な負荷をかけていることも歯槽のう漏を進行を促進する関連性があるのかもしれない。これは専門医に聞いてみないとはっきりしないことだが。一度、歯ぎしり防止のマウスピースをして安眠してみたいものである。

 現在、日本人の歯の平均本数は60歳で22本。70歳で14本。親知らずも含め約30本の永久歯を保有していたはずである拙者は、ケガや虫歯、そして歯槽のう漏ですでに7本を失ってしまい現在の本数は23本である。そして今ぐらついている2本が抜け落ちれば、すでに60歳の粋に達してしまうことになる。

 このままでは、厚生省や歯科医師会が推進している80歳で自分の歯20本を残そうという8020運動には到底およばない。果たして80歳で何本、自分の歯を持つことができるか? せめて8010はキープしたい。その前に80歳まで生きていられるか? 歯がないと人生に歯が立たない。歯の健康は老後の生活を大きく左右する大事な鍵でもあるのだ。

 
 レディ・アンド・ジェントルマン! 歯周病をなめてらあかんぜよ!! を身を持って経験中でござりまする。これは恐い病気なのです…。 
 
 
 もういいかげん我流のデンタルケアは止めよう。悔い改めるのである。専門医の腕と英知を借りて、医療費が続く限り8010を目指し、憎き歯槽のう漏と立ち向かってゆく所存である。   (五月)