「回転焼」
この類いの焼き菓子は全国的に「今川焼」や「大判焼」の名で親しまれているようだが、佐世保では昔から「回転焼」と呼ばれている。その名の由来は36ヶのくぼみを備えた鉄板焼き器が固定式ではなく、クルクルと回転する仕組みからきている。
佐世保に登場したのは戦後間もない昭和20年代。まだ物資が乏しい頃、潮見町に開店した「甘党の家・御座候屋」のメインメニューはぜんざいと、この回転焼(夏場はかき氷)だったのだ。しばらくしておなじみの下京町「一休」にもこの回転焼が登場した。
今のように砂糖やあずきなど甘い物が身近じゃなかっただけに両店とも爆発的な人気を呼んだそうだ。当時はテイクアウトよりも店内で食べるのが主流。値段は一皿60円(1個5円)だった。人々は皿単位で注文して一人で10個以上をぺロッと平らげていたのである。
映画全盛期、ナイトショーともなると「一休」の前には真夜中まで行列ができていたという。確かに私も祖母にゴジラ映画に連れて行ってもらった時、手提げ袋からおにぎりやら回転焼を取り出していた記憶が残っている。
時には外国人も列に並び「レッドビーンズ!」と注文する光景もある“佐世保の味”は、21世紀になっても健在だ。ちょっとした茶菓子や手みやげにも最適なわが町の名物。特にこの寒い季節は、あの店頭のぬくもりも恋しくなってしまう。一個でいいからあったかい焼きたてを食べたくなり、つい列に並んでしまうのだ。
そして、佐世保人の多くは「黒あんと白あんどっちが好いとっ?」と知人、友人と一度はプチ論議を交わしたことがあるのではなかろうか(?)。私はちなみに白派である。現在値段は1個63円なり。
(師走)