「本当にあったトホホな話」
第一話 〈恐怖の左手〉
もう何年も前のことでございます。ある日。四ヶ町アーケードの本屋さんで文庫本を立ち読みしておりました。ところが、その日はいつもに比べ活字が非常に読みづらく、気になってしょうがありません。……もしや、乱視がエスカレートしたのでは、と目尻を細めて文字を追っておりましたら、ようやく焦点が合ったのでしょう、文章がスルスルとそうめんのように脳味噌に流れ込んできました。
そうしてしばらく、立ち読みに耽ておりますと、あっ!? 肌が泡立つようなその時の恐怖をどう例えましょう。あ〜思い出すのも恐ろしい。文庫本を開き構えたわたくしの左手が……。ギャ〜ァ〜助けて〜! と心の中で絶叫でございます。 左手の位置がヘソの近くまで下がっているではありませんか。
あ〜なんだこれは。これまで本を眼孔に近づける動作は覚えがありましたが、こんなに離して読んでいるわたくしは一体何者でございましょう? これぞ老眼の恐怖だったのでございます。トホホのホ。
ちなみに、昨年、知人より届いたメールの絵文字が初めて目にするもので、何を意味するものか分からず、解読に困り果て携帯の液晶画面を虫眼鏡で覗いてしまいました。トホホのホ。絵文字は急いでダッシュしている人の姿でございました。
まだまだお聞かせしたいトホホば話が、きのこの山ほどございますが、わたくしそろそろ発泡酒を飲むお時間がまいりましたので、今宵はこれにて失礼いたします。ごきげんよう。 (神無月)